農と福祉の連携ルポ|事例とその具体的な効果

農業を通じて、地域の人たちと共に「商品」を作り出す

社会福祉法人花工房福祉会(長野県)

地域住民が一体となって実施する大豆栽培

花工房福祉会が運営するエコーンファミリー(多機能型事業所)では、地元の醤油蔵元・丸ヰ醤油とのコラボによって、遊休農地を活用した畑で大豆を栽培するという取り組みを2012年から始めている。ユニークなのは、種まきから収穫に至る活動を地域住民と一緒になっておこなっている点である。農業ボランティアとして参加するのは、NPO法人グリーンケアNAGANOの会員、川田小学校四年生、丸ヰ醤油のスタッフなど。総勢数十名のメンバーが6月の大豆の豆まきからスタートして、畑の草取りや、大豆の収穫(10月)、そして脱穀作業(11月)に至るまで、半年間にわたって施設の障がい者たちと共に汗を流して働いていく。収穫された大豆は丸ヰ醤油に納め、オリジナル醤油を作ってもらうのである。

遊休農地を活用した畑で大豆の種蒔き風景
遊休農地を活用した畑で大豆の種蒔き風景
子供ボランティアも大活躍
子供ボランティアも大活躍

この取り組みを始めた経緯について、小池邦子施設長は次のように語っている。

「きっかけは、『近所の畑(長野市若穂川田)に遊休農地があるので、何かに使ってみませんか?』と打診されたことでした。しかし施設で作物を作るといっても、しょせんは素人。栽培ノウハウも持ち合わせていませんし、収穫した作物を販売するルートもありません。そんな時、丸ヰ醤油の民野社長が『大豆を栽培してくれたら、すべて買い取ってあげるよ』と言ってくださったのです」

丸ヰ醤油というのは、地元・信州で契約栽培された小麦や大豆にこだわり、伝統的な醸造法で味噌や醤油をつくっている蔵元である。「食材を作る人と食べる人の顔が見える関係」づくりにも力を入れてきた。そんな蔵元だからこそ、障がい者施設が中心となった遊休農地の活用事業に協力を申し出たのだろう。小池施設長はさっそく施設の周りの人たちに農業ボランティアを募り、みんなで一緒に材料の栽培から収穫、製品(醤油)づくりをおこなうプロジェクトを立ち上げたのである。

共に汗を流すことで、障がい者への理解も深まる

畑で収穫された大豆は、約500kg。すべて丸ヰ醤油が買い取り、オリジナル醤油「みんなで作ったおしょうゆです。」に加工されていく。長野県の地域奨励作物支援事業も活用するため、大豆の買い取り価格はキロあたり230円になる。加工された醤油は丸ヰ醤油から発売されるだけでなく、エコーンファミリーでも格安に仕入れて自主製品と一緒に販売している。地域パワーが結集された製品だけに、反応も上々のようだ。

「丸ヰ醤油さんには本当にお世話になっています。農業ボランティアとして種まきや収穫などを手伝ってもらうだけでなく、醤油の製造工程にまで利用者たちを参加させてくれました。また、川田小学校の子どもたちが半年間頑張ってくれたお礼として、完成した醤油を一本ずつプレゼントしてくれたのです。ラベルにも参加メンバー全員の集合写真を載せたこともあり、子どもたちは本当に喜んでくれましたね」(山岸佳代さん/エコーンファミリー)

地域パワーが結集された製品づくり
地域パワーが結集された製品づくり
オリジナル醤油「みんなで作ったおしょうゆです。」
オリジナル醤油「みんなで作ったおしょうゆです。」

半年間一緒に汗を流した仲間として、エコーンファミリー利用者たちと子どもたち、そして農業ボランティアのメンバーには強い絆が生まれたのだ。小池施設長は、これが今回のプロジェクトを通じて何よりも嬉しかったという。

「エコーンファミリーでは、これまで地域に積極的に出かけて自主製品の販売をおこなってきました。利用者たちが一生懸命声を出して販売する姿は、町の名物になりつつあります。けれども、まだまだ彼らの存在は多くの人たちに知られていないのも事実。畑で一緒に汗を流して働くことほど、効果的な普及活動はないかもしれません。子どもたちは親しい友だちのように接してくれますし、お年寄りたちも自分の孫のように可愛がってくれます。これからもたくさんの人たちを巻き込んだ活動にしていきたいですね」

花豆やカシス栽培の農福連携事業もスタート

花工房福祉会では、エコーンファミリー以外の施設でも続々と同様の農福地域連携スタイルの動きが始まっている。まずは、藤田九衛門商店とのコラボによる「高原花豆」の栽培である。藤田九衛門商店とは、2013年に長野市の善光寺前にオープンした「鯉焼(こいやき)」の和菓子店だ。信州で昔、ハレの舞台で食されてきたという鯛をモチーフにし、仏像彫刻師による躍動的なデザインの特注金型で焼かれたオリジナル菓子を生み出した。餡は長野県産の高級花豆を使って自ら練り上げ、生地に使う小麦ももちろん100%県内産だ。こだわりぬいた職人の味が、善光寺巡りをする観光客たちの新名物となっている。

そんな人気商品の餡に使用される花豆栽培の一部を、炭房ゆるくら(就労継続支援B型事業所)で引き受けたのだ。障がい者の農業就労チャレンジ事業を活用したため、草取りや、蔓の誘引、収穫、豆の選別、竹の加工など、難しい技術が必要とされる工程には専門家を招くことができた。餡用に卸す花豆は、形が不揃いなC級〜D級のものが中心である。A級〜B級に関しては、生豆のまま独自に販売できるため、ロスなくすべてを収入につなげることができる。また藤田九衛門商店の「鯉焼」は、自分たちの豆畑から生まれた製品として仕入れ、イベントやギフト商品として販売もおこなっている。

仏師デザインの金型で焼かれたオリジナル菓子
今や、長野県の新名物になりつつある「鯉焼き」
商店とのコラボによる「高原花豆」商品
A級〜B級の花豆は、生豆としても販売

「自分たちが育てた花豆から作られた製品なので、まるで自社製品のように自信を持って販売できますね。取り扱いアイテムが増えたおかけで、ギフト商品の売り上げもアップし、一石二丁です」(今井弘樹さん/炭房ゆるくらサービス管理責任者)

また、わくワーク(就労継続支援B型事業所)では、有限会社にんくくふぁーむとの連携によって2014年度から無臭にんにくの栽培を委託されるようになった。これもまた契約栽培方式であり、栽培したにんにくはすべて買い取ってもらうビジネスモデルである。「売り先が決まっているから、安心して栽培に特化できるのです」と、小池施設長は言う。「農福連携に加えて企業との関係を強めていくことが、今後はますます求められていると思います」。

花工房福祉会では、地域住民と共にNPO法人「長野カシスの会」を設立し、スーパーフルーツ・カシスの栽培&商品化にも取り組んでいる。

障がい者の就労支援事業所が農業に関わることのメリットとは

花工房福祉会ではこれまでエコーンファミリーを中心として、パンやクッキー、豆腐などの自主製品を地域で販売する活動を展開してきた。対面販売を数多く実施することが、地域の人たちに自分たちの存在を知られる手段だと考えていたからである。そんな花工房福祉会が、ここ数年農福連携事業に積極的に関わってきた理由は何だろうか? 小池施設長に伺ってみた。

「ひとつにはもちろん工賃アップのためには何でもやるということですね。あらゆる手段を用いて、目標達成のために努力しないといけませんから。農福連携によって新しい事業が生まれるなら、どんどん参加していくべきだと思うのです。ただし、私は自分たちで生産から加工・販売までのすべての工程をおこなおうとは考えていません。プロの力を借りながら、任せられるところはお任せする。むしろ地域の人たちと一緒になって事業を作り上げることが、私たちの役割のような気がしています」

障がい者の職域拡大という観点からも、農作業を取り入れる意義は大きいという。

「施設の中の細かな作業では能力を発揮できなかった利用者が、一歩外に出たとたんに見違えるように働くようになる。そんな例をたくさん見てきました。彼らの可能性を活かしてあげるためにも、農福そして企業との連携作業を事業の柱の一つとして、もっと成長させていきたいですね」

農業を通じて、地域の人たちと共に売れ筋「商品」を作り出すという花工房福祉会の取り組みは、障がい者の職域拡大や工賃アップをめざしている他施設にとっても格好の見本となることだろう。

地域の人達と共に商品開発で工賃UP!!
地域の人達と共に商品開発で工賃UP!!
一生懸命、大豆を収穫しました!
一生懸命、大豆を収穫しました!