農と福祉の連携ルポ|事例とその具体的な効果

「もったいない」の精神が生み出した、地域農家との連携活動

社会福祉法人一麦会 (麦の郷)(和歌山県)

麦の郷が力を入れている小ロットの委託加工

社会福祉法人一麦会(麦の郷)では、地域の農家から預かった作物を施設で加工し「OEM商品」として納めるという、小ロット委託加工の仕事を積極的に展開している。はぐるま共同作業所・和の杜(以下、和の杜)の大中一(おおなかはじめ)施設長は、この事業を始めたきっかけについて次のように説明する。

「私たちの施設では、納豆、せんべい、ゼリー、きな粉、ワッフル、ポップコーンなど、多種多様な自主製品をつくって地域で販売してきました。原材料を仕入れるために農家さんとのつきあいは欠かせません。そんな中で、売れ残った大量の作物の処理に困っているという話を聞いたのです。時期を過ぎてしまった野菜や果物は、もちろん売ることもできません。せっかく丹精込めて育てた作物を廃棄していることもしばしば。あまりに『もったいない』から、なんとかならないか?と、多くの方が悩んでいたのですね。そこで、『自分たちの施設ではこんな加工技術があるから、小ロットでよければ作物を加工しますよ』と提案したところ、とても喜ばれたのです」

和の杜の他にも麦の郷には多くの事業所があり、たくさんの商品をつくっている。たとえば、はぐるま共同作業所・ラテール(以下、ラ・テール)ではパンやクッキー、豆腐、ジュース、ジャム、ドレッシングなど。もぎたて農産加工所(以下、農産加工所)では、乾燥野菜の製造を中心に行っている。各施設がもつ加工能力を地域の農家に提供すれば、さまざまな作物の商品加工が可能になるのではないか。それが大中さんのねらいだった。

きなこのふるい作業
きなこのふるい作業
各施設でつくられているさまざまな製品
各施設でつくられているさまざまな製品

施設のもつ機材を、地域の人たちに利用してもらう

生産者たちが、自ら育てた農作物を商品として加工・販売する。いわゆる農業の六次産業化を実施するにあたって、一番やっかいなのが機材の問題だろう。たとえば和歌山県の名物であるみかん。果物として販売する以外にも、ジュースやゼリーといった加工品が考えられるが、小規模農家にとって高額な機材を購入するのは難しい。ところが、ラ・テールには既にみかん絞り器や、パルパーフィニッシャー(裏ごし機)、充填機などが揃っている。これらを使って加工製品をつくるのは、施設にとってはもっとも得意なことなのだ。

「各事業所でつくっている製品がまちまちなので、保有している機材や得意分野も違います。これがかえって、より多くの農家のニーズに応えられることがわかりました。果物ゼリーをつくるためには、ラ・テールの絞り器で果汁にし、裏ごしした後で、和の杜でゼリーに加工・充填します。粉末野菜をつくるときは、農産加工所で乾燥野菜にしてから和の杜で粉末化し、きな粉製造の技術でふるいにかけていきます。それぞれ小さな事業所ですから製造能力には限度がありますが、だからこそ小ロットの委託製造を請け負うことができるのです」

と、大中さん。大規模のOEM製造を受けられる企業なら、いくらでも存在する。麦の郷が対象としているのは、ロットが小さすぎて企業には発注できないような小規模農家なのである。和の杜では商品ラベルも内部のプリンターで出力できるため、たとえ小ロットでも「○○さんがつくった納豆」といったシールを容易に作成可能である。こうしたオリジナル商品を、農家の人たちは道の駅などで販売できるようになるわけだ。

ラ・テールのみかん絞り器
ラ・テールのみかん絞り器
和の杜のゼリー充填機
和の杜のゼリー充填機

最高品質の南高梅を使ったジュレ製造も任された!

大中さんたちは、和歌山県が県産品を他地域に広めるための商談会にも積極的に参加しているという。大阪での商談会では、地域資源を活用した食品企画会社である京都・柑橘館(かんきつかん)の河田商店と知り合い、京都産ゆずを粉末化する仕事を依頼された。小規模ロットのオリジナルサイダーなどの製造を得意とする企業だけに、今後の展開が期待されている。

県内農家とのつながりも少しずつ広がっているようだ。北山村の特産品である柑橘類の「じゃばら」が、マスメディアで花粉症に効果あると取り上げられ、最近大きなブームとなっている。そのため県内各地でじゃばらを生産する農家が増え、果実をジュースやゼリーにしたいという依頼が続々寄せられているのだ。また、和歌山県の名産品「南高梅」を無農薬・無肥料栽培する紀州みなべのてらがき農園からは、最高品質の梅シロップをジュレにする仕事を任されている。

「てらがき農園の梅シロップといえば、540mlのものが一本でなんと4,000円もする超高級品。最初は扱うのに、ドキドキしました(笑)。でも多くの農家さんの依頼をこなすうち、独自の製造ノウハウが蓄積しましたから。今では、どんな材料でも自信を持って加工できますよ。日本最高峰の南高梅の加工を任されていることに、とても誇りを感じています」

このほかにも、県内のイチゴ農家からはイチゴジャムやゼリーの加工、ほうれん草農家からはほうれん草パウダー、みかん農家からはみかんジュースやゼリーや皮の粉末加工、柿農家からは柿ジャムや乾燥チップスなどの加工依頼が頻繁に寄せられるようになった。

どんどん広がる、地域農家とのネットワーク

麦の郷では、今後も積極的にこうした小ロット委託加工作業を受注していく方針であるという。大中さんはその理由を次のように語っている。

「もちろん私たちの事業の中心は自主製品の生産販売です。けれども、製品販売の販路を広げていくのは、あまり得意でない仕事なのも事実。今後、大幅に売り上げを伸ばしていくのは難しいと考えているのです。それに対して、委託加工の仕事は一度お付き合いをした農家さんが次々に別の方を紹介してくれる。それこそ芋づる式に、どんどん増えてきています。販売先を考えないといけない自主製品に比べて、加工作業をすれば必ず作業代をいただけるのも魅力的ですね。もちろん委託加工を中心とする事業展開に変えるつもりはありませんが、自主製品と並ぶ柱の一つとして積極的に取り組んでいきたいですね」

福祉施設が保有する生産設備というのは一般的に助成金などの公的資金によって導入されたものがほとんどであり、本来は地域の公的資源といってもいいだろう。せっかく立派な機材があるのに、それが充分フル稼働しているとは言いがたい「もったいない」現実。自分たちの生産設備を地域農家たちに解放し、六次産業化のための支援をしようとする麦の郷の取り組みもまた、農福連携がもたらす大きな成果と言えそうだ。社会福祉法人のユニークな地域貢献活動としても、注目に値するのではないだろうか。

農家さんの「もったいない」に応えます!