農と福祉の連携ルポ|事例とその具体的な効果

県内24施設が参加する農作業の共同受注システムを構築

NPO法人香川県社会就労センター協議会(香川県)

全国的にも珍しい、農作業の共同受注システムとは?

香川県社会就労センター協議会(以下、香川県セルプ協)では、県内農家への作業支援を「共同受注」する取り組みを平成23年から始めている。香川県セルプ協の会員は85施設だが、そのうち何らかの形で農業に取り組んでいるのは、約24施設ある。そんな施設を対象とし、香川県セルプ協が仲介役となって農家から要請された作業支援員を派遣していくのである。

香川県セルプ協のコーディネーター・太田聖臣さんは、この企画の趣旨を次のように説明する。

「県内でも多くの施設が農業に取り組んでいますが、その多くは小規模であり、専門的ノウハウをもっていないのが現状でした。一方、農家では高齢化が進み、後継者不足が深刻な状況です。その結果、作付面積は年々減少してしまい、遊休農地が非常に目立つようになっています。そこで農家の労働力不足を解消する手段として、施設で働く障がい者を農作業に派遣するシステムが考えられたわけです」

契約は作業を依頼する農家と香川県セルプ協が締結し、会員施設に仕事を分配していく。このとき、施設の都合と農家の要望をすりあわせるマッチング作業が非常に難しいという。勤務可能な時間や派遣できる人材や作業能力数が、施設によってまったく異なっているからである。

「ある施設は朝8時から参加が可能だと言ってくれますが、別の施設は10時以降でないと無理だと言う。送迎の関係でやむを得ないとはいえ、やりくりは非常に大変ですね」

と、太田さん。農家との契約は、時間制ではなく成果制を取り入れているのも特徴だろう。契約は「何アールの畑の作業をおこなうのか」が条件となり、その作業を実施するために「どの施設から、何人の利用者を派遣するのか」は香川県セルプ協側に一任されているのである。

「施設や利用者によって作業能力に違いがあるため、これがもっとも重要なポイントだと私は考えています。なかには畑でまったく仕事をせずに座ったままの利用者もいるわけですからね(笑)。最初は農家の人もビックリしますが、あくまで私たちとの契約は成果制。依頼された作業をこなすための人員配置と作業時間は、こちらに任せてもらっているのです」

にんにくの収穫
にんにくの収穫
びわの袋がけ作業
びわの袋がけ作業

「お試し」で始まった仕事が、あっという間に広まった

この作業を香川県セルプ協に始めて依頼した生産者は、津田地区の増川能成(ますかわやすなり)さんである。にんにくの収穫時に人手が足りずに困っていたところ、施設利用者を農作業者として派遣できる話を県の担当者から聞いたのだという。

「最初はとりあえず試しに来てもらって、あまり役に立たないなら悪いけど引き上げてもらおうか、程度の軽い気持ちでした。なにしろ私たちにとって障がい者というのは、未知の存在。戦力としてどれくらい役に立つかなんて、想像もできませんでしたから」

と、増川さんは正直な気持ちを打ち明ける。しかし派遣されてきた施設利用者たち約20名が畑で働く姿を見て、当初抱いていた不信感はあっという間に払拭されることになった。「あくまでお試し」を強調していた増川さんが、即座に同地区の生産者に「スゴイから、見に来い」と電話し、仲間たちが続々集まって来たのだ。にんにく女性部会の國方朋子会長は当時の衝撃を、次のように語っている。

「ホントにビックリしました。2反ほどのにんにくの収穫が、あっという間に終わってしまうのですから(笑)。畑仕事というのは、とにかく人手が勝負。たとえ素人であろうと、数にはかないません。皆さんが働く姿を見るとすぐ、ぜひ私のところでもお願いしたいと手を上げました。最近はシルバー人材センターから派遣される方も高齢になってきているので、どの農家さんも困っていたのですよ」

同部会の山下加代子さんも、続けて言う。

「農家の後継者不足は深刻ですからね。だんだん年をとってきて、肩や腰は年中痛むし、家族労働にも限界がある。やむなく少しずつ作付面積を減らしていくしか仕方ありませんでした。でもこの支援のおかげでみんな生き返った感じです。最近はむしろ作付けを増やす生産者が増えました。多い人だと2倍にして、まだまだ増やそうと考えている人もいるらしいですよ(笑)

増川さん一家と、太田コーディネーター(中央)
増川さん一家と、太田コーディネーター(中央)
にんにく女性部会の山下さん(左)と國方会長(右)
にんにく女性部会の山下さん(左)と國方会長(右)

農作業によって、利用者の能力も向上する

このように施設利用者たちの働きぶりは生産者たちから絶賛されて、依頼される仕事も次々に増えていった。現在では、にんにくの収穫だけでなく、作付け、マルチ芽出し、レタス、タマネギの定植・収穫作業、キャベツの中耕・土寄せ作業、びわの袋掛け、ハウス内の除草作業…等々、さまざまな作業に関わるようになっている。もちろん津田地区だけでなく、県内のあらゆる地区から口づてで依頼が殺到。太田コーディネーターが各地区のとりまとめ農家と相談して年間スケジュールを作り、施設からの参加希望者を事前に募っている状況だ。

施設から見ても、農作業の仕事は非常に価値があるという。参加意欲はまったく異なるが、積極的に派遣している施設の平均工賃は急カーブを描いて上昇している。香川県セルプ協の高橋英雄理事長は、共同受注農作業が県内施設の平均工賃アップに寄与した成果を強調する。

「香川県内では、箱折りなどの下請け作業を中心に行っている施設が多いため、県全体の平均工賃は低いレベルに甘んじていました。その意味でも参加施設には、農作業の仕事は非常に喜んでいただけたようです。これまで数千円単位の平均工賃だったのが、数年間で20,000円を超えた施設もあるのですよ」

社会福祉法人ナザレの家・あじさいも、共同受注農作業によって大幅に平均工賃を上げた施設の一つだ。小河大樹支援員は、工賃アップ以外にも利用者の能力アップが著しいと嬉しそうに語っている。

「農作業を体験した利用者は、仕事への意欲がとても高くなります。本当に驚くほどの変化です。彼らは非常に体力もつくため、企業への就職が決まる人も出てきました。農家で教えてもらったノウハウは、施設での農作業にも役立っています。もうにんにくの栽培なら、お手のもの。職員より詳しいくらいです(笑)。おかげで施設内の農作業もレベルアップして収穫量が増えたため、工賃向上に一役買っています」

キャベツの中耕・土寄せ作業
キャベツの中耕・土寄せ作業
採取玉ネギのネギ坊主の収穫
採取玉ネギのネギ坊主の収穫

全国に広がってほしい、共同受注農作業システム

共同受注農作業のシステムが始まってから、約4年。現在では県内のあらゆる農家から、貴重な労働力として頼りにされるほどになった。

「初めの頃は、もちろんいろいろミスも多かったですよ。にんにくを植えてもらったはいいけど、いつになっても芽が出てこない。おかしいな?と思って掘りかえしてみたら、種子を上下逆さに置いていたり、種子を置かずに土をかけていたりする。でもまあ、そんなことはご愛敬(笑)。こんなきつい仕事を文句一つ言わずにやってくれているのだから、有り難いことですよ」(山下さん)

「今時の若い人たちは、とてもじゃないけど農作業なんてできないからね。たまに外から研修で手伝いに来たりするけど、一日で音を上げてしまうくらい。それくらい過酷な仕事なのです。障がい者たちは本当に頑張って働いてくれていると感心します。少しずつ教えていけば、お願いできる仕事はもっともっと増えるはず。仕事が増えればみなさんの工賃はアップするわけだし、私たちの収入も増えていく。香川県だけでなく、日本中のあらゆる地域で同じようなシステムが広がると良いのではないでしょうか?」(増川さん)

課題はもちろん残されている。一つは、労働時間の問題だ。農作業には本来、土日も祝日もないはずだ。できれば午前8時から午後4時程度まで働くのが理想であり、利用者の送迎の関係で午前10時〜午後2時程度しか派遣できない施設に仕事を依頼するのはなかなか難しい。施設と農家の間を取り持つコーディネーターの悩みは、これからも続きそうだ。

しかし、これだけ農家から期待されている事業である。課題を少しずつ克服して、次のステップへ向かっていけばいいと多くの関係者は考えている。障がい者施設の利用者たちが貴重な労働力として期待され、地域農家の農作業に参加する。そんな香川県の「共同受注農作業」の取り組みが、農家と施設双方にとってウィンウィンの関係を築きつつあるのは間違いない事実なのだから。

作業後の達成感に満ちた顔
作業後の達成感に満ちた顔
休憩中の他施設の人たちとのふれあい
休憩中の他施設の人たちとのふれあい