施設における農および6次産業化への取り組みについてのアンケート調査結果

1.回答事業所の構成

回答のあった832事業所のうち社会福祉法人95.4%と社会福祉法人が圧倒的で、事業所の障害者種別の内訳は「知的障害者」が66.0%と高い割合となっている。サービス体系は「就労継続支援B型」(82.5%)、「居宅介護」(46.2%)、「就労移行支援」(35.3%)の取り組みが多い。

2.農業活動の取り組み状況

(1)農業活動の取り組み状況
「取り組んでいる」、「やめた」を合わせると約4割であり、多くの事業所が農業活動の経験があることを示している。また、「取り組んでいる」、「地域農産物を用いた加工・飲食事業には取り組んでいる」を合わせても約4割であり、地域資源を活用した事業に多くの事業所が取り組んでいる。さらに、「今後、農業活動をやりたい」と1割以上が回答していることから、福祉と農業活動の繋がりは今後、ますます強くなっていくことが予想される。
工場などの多い地域では、農業活動のほかにも作業があるため、農業活動に取り組む事業所が少ない傾向にあると考えられる。
(2)農業をやめた理由
取り組んでも技術的に安定的な生産を行えず、収益が上がらなかったためと考えられる。
(3)農業活動に取り組んでいない理由
販売に結び付く農業技術をどのように習得していけばよいのか、一定規模の農業を行うためには農地を借りる必要があり、どのようにすれば借りることができるのか、そして農業に取り組むためのマンパワーが事業所では慢性的に不足気味であるという課題が明らかになった。
(4)農業活動の取り組み開始時期
農業活動に取り組んでいる事業所についてその開始時期をみると、この10年間が46.3%であり、近年加速度的に増加している。バブル崩壊やリーマン・ショック以降、主な下請け作業などの受託先であった企業からの仕事が減り、事業所の単独事業として農業活動に取り組んだのではないかと考えられる。特に小規模な事業所ほど独自事業として農業活動に注目している傾向にある。
(5)農業活動を始めた当初の狙い
農業特有の多様な作業があることが障害者の職域を広げること、自然を相手にする農業活動そのものの効果を目的として取り組み始めたとみられ、近年では農業を障害者の新しい仕事として位置づけるようになってきている。
(6)農業活動の現在の目的
農業活動の現在の目的は、上位の項目は(5)の当初の狙いで挙げられた項目とほぼ同様である。しかし、「新しい職域開拓のため」への回答割合は当初の狙いに比べ33.7%から17.2%へと低下している。これは農業活動の取り組むことで職域開拓に一応の成果があったということを示していると考えられる。また近年取り組み始めたところほど、「新しい職域開拓」「新規の事業収益」を目的としている。
(7)農業活動の収支上の位置づけ
農業活動に収益を期待している傾向が窺え、特に就労支援事業所が期待している。また中小規模の事業所が期待している。
(8)農業法人の設立
約1割の事業所が農業法人の設立を検討しており、今後、福祉サイドの事業所が地域農業の担い手の一つとなる可能性がある。
(9)農業活動の主なサービス体系
農業活動に取り組んでいる主なサービス体系は、「就労継続支援B型」が2/3と多数を占め、就労場所は事業所内が8割強と多い。

3.農業活動の内容、規模等

(1)生産している農産物
生産している農産物は「野菜」が8割と極めて多い。そのほか「花卉等」、米以外の「他の穀物」、「キノコ類」、「果樹」などとなっている。露地・施設での野菜、米以外の穀物では大豆などの生産が多い。キノコでは菌床シイタケより原木シイタケを選んでいる。また畜産では鶏卵の生産が圧倒的に多い。
(2)農産物の品目数
品目数は「1~5種」が半数近くを占めている。
(3)新しい農法への取り組み
農産物づくりとしては「慣行農業」が一般的であるが、「減農薬有機農業」、「無農薬有機農業」に取り組む事業所が2~3割ある。
(4)農産物の販売
生産した農産物を販売している事業所は86.0%に達し、多くの事業所が生産したものを販売しているが、その一方で自給食料および加工・飲食等の6次産業の事業にも活用している。
(5)農産物の販売先
地域または自営の直売所で販売する傾向が見られる。
(6)主たる農産物
販売している農産物の主な作目は「野菜」、次いで「花卉等」が多い。
(7)主たる農産物の選定理由
技術的に栽培しやすく、適性に合わせることができ、通年仕事のある農産物が好まれている。農産物によって、選定理由が分かれている。
(8)主たる農産物の売上割合
主たる農産物の売上割合は、「3割以下」と「10割」がそれぞれ約2割と比較的多く、多品種の作目を生産している事業所と、特定の作目に特化している事業所の両極に分かれ、多品種型は一年を通してさまざまな作目を生産し、特化型は施設を利用したものを主として生産している。
(9)農地面積
平均面積は1haを超え、1ha以上が約2.5割を占め、一定規模で生産している。またそのうちの約8割が借地であり、地域との繋がりの中で生産を行っている。
(10)農地分散箇所数
農地を借りる場合、面積が大きくなれば、農地が分散している。
(11)平均地代
最も多いのは「1~2万円」、平均値は3.5万円である。
(12)農家等からの作業受託
2割の事業所が受託し、地域の農業を支えていることが窺える。
(13)農家等への作業委託
事業所では技術的に難しい「苗作り」、そして大型の機械や施設が必要なものを委託している。

4.農業活動の取り組み経緯と売上高

(1)農地確保の経緯
農地確保の経緯は、「職員、理事、その親類等の関係者に相談して」が38.9%と最も多く、ついで「もともと法人として所有していた土地の一部を利用」(25.8%)、そして2割強の事業所が地域の農家や農業法人から頼まれて、農地管理の役割を担っている。
(2)農業活動の売上高、費用
農業活動開始時の初期費用の分布をみると、100万円未満が約半数、平均費用は707万円で、比較的初期投資を少なくして、農業活動を始めている事業所が多い。
農業活動の費用構成をみると、「職員人件費」が最も大きく費用全体の49.8%を占め、ついで「工賃」(18.1%)、「農業資材費」(15.1%)、「その他諸経費」(12.1%)の順となっている。
農業活動の年間売上高の分布をみると、100万円未満が46.4%、1,000万円以上が10.2%で、平均売上高は375万円であり、 自給農業活動およびその延長にある農業と、収益事業として取り組む事業所に分かれている。
(3)農業活動の売上割合
就労支援事業における農業活動の売上割合は10%未満が44.1%を占めており、売上でみる限り事業所における農業活動への依存度は概して高くない。
(4)職員の農業技術習得方法
第三者機関から指導を受けるというより、事業所内の人間関係の中での習得、そして担当者自らの自学自習によるところが大きく、それを地域の農家が支えているとみられる。
(5)障害者への農業技術伝達方法
障害者への農業技術伝達方法は、「職員がまず技術を覚え、職員が指導している」が9割にも達し、第三者による指導はほとんど普及していない。
(6)農業活動開始時に利用した助成金
民間助成を利用する事業所が多いが、公募であることや公的な助成金は手続きの期間が決まっていることや十分に周知されていないため、まだまだ利用されていない可能性がある。

5.6次産業化等への取り組み

(1)農産物の加工・販売等への取り組み
4割強が6次産業化に取り組んでおり、乳製品やジャムや菓子などの加工食品を製造していると考えられる。
(2)取り組み内容
6次産業化への取り組みとしては、加工>販売>飲食の順で多い。
(3)加工品目
野菜や果物を利用した「漬物」や「ジャム」が多いが、「その他」が半数に達し、多様な食品加工を行っていると予想される。
(4)農産物廃棄物の利用
農産物廃棄物の利用方法をみると、「廃棄(農地へ)」が3割、「肥料」が約2割となっている。
(5)加工・飲食事業と農業活動売上高
農業生産だけの事業所の平均売上高は354万円、加工・飲食事業等6次産業化に取り組んでいる事業所の場合515万円と大きく拡大しており、6次産業化を図ることによる売上効果は大きい。また、加工+販売+農業生産>加工+農業生産>農業生産と6次化すれば売上効果は大きくなっている。

6.障害者の作業内容等

(1)農作業の内容
「草取り」と「収穫」が8割を超え、次いで「定植」、「運搬」、「袋・パック詰め」などが中心となっている。比較的単純な作業でかつ労働力を必要とする作業を中心に取り組み、また収穫の喜びを体験できるように配慮しているものと考えられる。
(2)作業分野
障害者の作業分野は、ほとんどが「現場作業の実施」(95.3%)であるが、障害者にもよるが肉体作業労働だけでなく、高度な作業や判断の必要とする作業にも従事している者もおり、障害者の可能性を示唆している。
(3)作業内容で重視したこと
障害者の作業として重視していることは、「作業手順が分かりやすい」、「難しくない作業である」、「作業量、スピードを障害者に合わせることができる」などを中心に、障害者の適性に合わせて様々な配慮がなされている。
(4)作業上の工夫
障害者の適性に合わせ、分かりやすく、コミュニケーションを図りやすくしている。
(5)農作業の標準的なパターン
2/3の事業所が通年作業に取り組むことができており、1日5時間以上作業しているのは46.2%と長時間働くことができている。休業日を週休2日以上取得する事業所が87.4%を占め、昼食以外の休憩時間は45分以内取得している事業所が2/3を占めている。
(6)農業活動に従事する障害者数
肉体的に比較的安定している「知的障害者」が従事することが多いが、肉体にハンディを持つ「身体障害者」は少なく、自然と触れることで精神的に良い影響があると考えられる「精神障害者」はまだまだ少ない。
障害の程度・等級別の構成をみると、「身体障害者」の場合、重度の障害者が多数を占めている。「知的障害者」の場合、中・軽度が多数を占めている。「精神障害者」の場合、中・軽度が大多数を占めている。
性別構成は、「男性」が73.2%で女性が少なく、年齢別構成は、「30代、40代」が45.4%と最も多く、一般の農業生産者と比べると、若者が従事している。
(7)農業活動に従事する職員数
農業活動に従事する職員数は1事業所当たり4.2人、職員種別の構成は、「常勤職員」が66.0%、「非常勤職員」が22.2%、「ボランティア」が9.2%である。
(8)農場への移動
農場までの移動手段は「事業所の車」か「徒歩」で、公共交通機関はほとんど利用されていない。最も遠い農場への所要時間は、「10分未満」(53.0%)が中心となっているが、ほとんどが30分以内に収まっている。
(9)農場の施設
農場に設置している施設としては、「ハウス」、「トイレ」、「休憩所」、「洗い場」、「倉庫」、「作業所」などが多く、このうち「トイレ」、「休憩所」などは障害者向けに新たに設置している。
(10)利用している農業機械
障害者の作業内容では「草取り」や「運搬」が多かったことから、それにかかる機械を自己所有していると推察される。

7.農業活動の効果

(1)農業活動の効果
農業活動に取り組んだことにより障害者の身体や精神に変化があったか否かについては、最も効果があったのは「精神の状況」であり、「よくなった・改善した」の割合が57.3%に、「身体の状況」も45.0%に達し、一方「悪くなった・悪化した」とする事業所はほとんどない。
就労訓練とそれによる自意識の向上、さらには人や地域とのコミュニケーション能力が高まっている。
(2)工賃の変化
工賃の変化については、「向上した」事業所は4割を超え、多くの事業所で工賃は向上している。長期にわたり農業活動に取り組み、加工・飲食にも取り組む事業所では工賃が向上している。
(3)平均工賃
平均は月1.45万円である。「就労継続支援A型」は高い工賃を支払っており、「就労継続支援B型」と「就労移行支援」が一般的な平均工賃より若干高い。

8.地域との関係

(1)近隣農家・農業団体の理解
農業活動に取り組むことに対する近隣農家・農業団体の理解は、時間の経過とともに地域での理解が徐々に進んでいる。
(2)近隣農家・農業団体の協力関係
農業技術の指導および農地確保での協力関係が多いが、そのほか機械・施設を無償で譲り受けたり、作業の受委託関係があったり、農作業を手伝ってもらっていたり、共同販売を行ったりと、地域との繋がりは多岐にわたっている。

9.必要な制度、支援

(1)農業活動で利用している助成制度
農業活動開始時と同様、現在も民間助成を利用する事業所が多い。公的な助成の利用は減っている。だが国より地方自治体による助成は比較的受けている。
(2)農業活動の取り組み開始時に困ったこと
農業技術の取得、販売先の確保、仕事づくり、農産物の安定供給などが課題となっていた。
(3)農業活動に取り組んでから困っていること
農業活動の取り組み開始時とはそれほど差はないが、指導員・人材確保が低くなり、安定供給が高くなっている。

10.今後の展望、取り組み意向

(1)農業活動の取り組み意向
今後の農業活動の取り組み意向をみると、既に取り組んでいる事業所では「拡大したい」が43.0%、「現状維持」が40.9%、「縮小したい」が4.3%であり、今後、農業活動の取り組みはさらに活発化する可能性が強い。
現在農業活動に取り組んでいない事業所においても、「開始したい」、「再開したい」という今後農業活動に前向きな事業所は91事業所となる。したがって、現在取り組んでいる事業所数279事業所に91事業所を加えると370事業所になり、調査対象の832事業所中の44.5%(現在33.5%)へと拡大することになる。
(2)農業への期待
高い工賃の実現や働く場をつくることに期待を寄せている。既に取り組んでいる事業所は工賃向上、新しく取り組みたい事業所は働く場の創出に期待している。
(3)農業活動開始時の課題
農業活動開始時の課題は、農業技術の取得、農地の確保、販売先の確保、障害者の作業づくりが大きな課題になっている、あるいはなると考えている。特に「今後、農業活動をやりたい事業所」では農地確保が大きな課題として挙げられている。
(4)職員の不安
作業中の安全性や障害者の心身への影響や作業調整に関することが中心となっている。
既に取り組んでいる事業所は現在も安全には不安を持っているが、障害者の作業調整や心身への影響については実際の取り組みの中で不安は減っている。しかし、取り組んでいない事業所は作業調整や心身への影響についても不安に感じ、不安は多岐にわたっている。
(5)必要な支援
農業技術指導、販売先の確保、農地・機械の確保にかかる支援が求められており、さらに農業技術にかかる相談相手を望んでいる。農業活動の取り組みの有無に関わらず農地の斡旋支援を望んでいる。
(6)中間支援組織の主体
農業サイドと福祉サイドだけでなく、行政、さらには民間企業が加わった地域全体の主体者による支援組織を求めている。
(7)中間支援組織の圏域
市町村や都道府県を単位とした中間支援組織が求められており、実際に取り組むときに必要となる地域の情報や情報が小さい圏域単位に期待されている。

11.加工・飲食事業の売上と費用

(1)加工・飲食事業の取り組み状況
自事業所や地域で生産している農産物の加工、飲食、その他の事業に取り組んでいると回答のあったのは832事業所中182事業所であり、取り組み割合は「農産物加工事業」が54.9%、「飲食店事業」が41.2%、「農業活動にかかる他事業」が21.4%であった。
(2)売上高(訓練給付金を除く)
農産物加工事業の売上高は500万円未満の事業所が7割を超え、平均売上高は476万円である。
飲食店事業の売上高は「1,000~2,999万円」が1/3を占め、平均売上高は1,320万円である。
農業活動にかかる他事業では100~1,000万円が4割だが、1,000万円以上が3.5割を占め1,000万円以上の事業所が多い。平均売上高は2,126万円である。
(3)費用の対売上比
工賃の対売上比は「農産物加工事業」>「農業活動に関わる他事業」>「飲食店事業」と、飲食店事業における売上に占める工賃の割合が低い。