施設における農および6次産業化への取り組みについてのアンケート調査結果

1.農業活動の取り組み状況

農業活動の取り組み当初は、農業特有の多様な作業があることが障害者の職域を広げることや、自然を相手にする農業活動そのものの効果を期待して取り組み始めたと考えられ、33.5%が現在も農業活動に取り組んでいる。
しかし、取り組んでも技術的に安定的な生産を行えず、収益が上がらずやめた事業所、あるいは販売に結び付く農業技術をどのように習得していけばよいのか分からなかったり、一定の規模の農業を行うためには農地を借りる必要があり、どのようにすれば借りることができるのか分からなかったり、そして農業に取り組むためのマンパワーが事業所では不足したりしているため取り組まないという事業所がある。
だが、今後再開したい、やりたい事業所は11%近くある。また、約1割の事業所が農業法人の設立を検討したいとしている。したがって、事業所は地域の農業の担い手の一つになる可能性がある。
この10年以内に開始した事業所は、企業の下請け作業に代わり事業所独自の事業として農業活動に取り組む中小の事業所が増加しているとみられる。特に「新しい職域開拓」や「新規の事業収益」を狙いに開始しており、今後の事業所の生き残りの事業の一つにもなっていくと考えられる。

2.農業活動の内容、規模等

農産物は野菜、花卉の生産が多いが、多品種作目を生産している事業所と、特定の作目に特化して生産している事業所の両極に分かれ、多品種型は一年を通してさまざまな作目を生産し、特化型は施設を利用したものを主として生産している。したがって、収益性を狙うのであれば、作目数を絞り、一定の規模で生産することを検討すると良い。また加工・飲食店事業には高い売上効果が期待できることから、自給および加工・飲食店そして販売等を含めた6次産業化に取り組むと良いであろう。なお、環境や健康に配慮した農業を行う事業所も多いことから、これを一つの高付加価値農産物として位置づけブランド化を図ることが望まれる。
これから農業活動に取り組む事業所は、障害者にとって技術的に栽培しやすく、障害者の適性に合わせることができ、通年仕事のある農産物を選定すると良いであろう。
既に農業活動に取り組んでいる事業所は1haを超える規模で行っており、その8割が借地によっている。したがって、地域の農地を利用したり、規模を拡大していくには地域との信頼関係をしっかり築くことが重要となる。さらに規模を拡大する場合、農地は分散するため、移動時間や作業効率を考えると、なるべく近い農地を借りることが大切である。
福祉サイドは農業サイドに支えてもらうだけでなく、相互に支え合う関係をつくることが重要である。例えば事業所では技術的に難しい「苗作り」を農家から購入したり、大型の機械や施設が必要な作業を委託する。反対に収穫や草刈りや運搬などの労働力を必要とする作業を事業所が請け負う、農家から農産物を購入して加工を行ったり、共同販売、機械の貸し借り・譲渡を行うなどである。

3.農業活動の取り組み経緯

農業活動を開始するとき、まずどこの農地を利用するのかが重要となる。そこではじめは事業所の土地で試行的に実施する。あるいは事業所外の農地を利用したいときは、職員や理事、その親類に相談して紹介してもらい、また農業委員会やJAや地方自治体等に相談し、農地を確保すると良い。一方、近年では農地を借りて欲しいという農家も増えており、地域ニーズに対応しながら取り組むことが望まれる。
次に、農業技術をどのように習得するかが重要となる。調査結果では、職員は第三者機関から指導を受けるというより、事業所内の人間関係の中での習得、そして担当者自らの自学自習によるところが大きく、それを地域の農家が指導している。したがって、まずは周りの者に聞いて、そして自分で試行錯誤するということが重要である。また可能であればJAや都道府県農業改良普及員などにも相談すると良い。場合によっては研修にいく、そして実際に取り組みながら、農家の協力を得ると良いであろう。その上で、職員が障害者へ指導を行う。
農業活動を始めるには投資も必要であるが、初期投資はできるだけ抑えて開始できるようにすることが重要である。そのとき、上手に助成金を活用すると良い。また、どこかの時点で本格的に収益事業として農業活動に取り組むかどうかという判断することも必要であろう。

4.6次産業化等への取り組み

4割強の事業所が6次産業化に取り組んでいる。加工>販売>飲食店の順で多い。事業所の持っている食品加工機械を利用しているとも考えられ、機械の有効活用にも繋がっているとみられる。今後は地域の農家が生産したものを事業所が食品加工をすることも可能であり、場合によっては、事業所は農業活動を行わず加工だけを行い連携するということも考えられる。
農業生産だけでの平均売上高は354万円であるが、加工・飲食事業等にも取り組む事業所は515万円と拡大している。したがって今後、加工+販売+農業活動>加工+農業活動>農業活動へ事業展開を図ると良いであろう。
しかし高い売上を上げている事業所もあるが、障害者が多い場合には工賃向上に繋がらないケースもある。工賃を上げるためには、一層の売上の向上を目指すか費用を削減するか、あるいは多様な6次産業化に取り組むことが重要となろう。

5.障害者の作業内容等

肉体的に比較的安定している知的障害者が従事することが多いが、肉体にハンディを持つ身体障害者は少なく、自然と触れることで精神的に良い影響があると考えられる精神障害者はまだまだ少ない。したがって、後述するが「精神の状況」の改善が多くみられることから、精神障害者には農業活動の取り組みは心身に有効であると考えられる。また1日5時間以上作業している事業所は46.2%にものぼり、農業は長時間働くことが可能な仕事と考えられる。
障害者の作業は、比較的単純な作業でかつ多くの労働力を必要とする作業を中心となっている。また、肉体作業労働がほとんどであるが、中には高度な作業や判断の必要とする作業にも従事している者もおり、障害者の今後の可能性を示唆している。農業ならより能力を引き出しやすいと考えられる。
障害者に作業を行ってもらうためには、作業手順を分かりやすくしたり、適性になるべく合わせるようにすることが重要である。
男性の障害者が多いが、今後はトイレを整備していけば女性も増えていくと考えられる。また休憩所もあると障害者にとっては良い。現在、従事する障害者は20代、30代、40代と若く、その労働力は地域にとって貴重な力となるであろう。

6.農業活動の効果

調査結果では、「精神の状況」だけでなく「身体の状況」、さらに「知的障害の状況」も改善しているという結果が得られている。心・気・体などに作用する「農の福祉力」の効果がみられるということである。さらに地域や人とのコミュニケーションをこれまで以上に図ることができ、作業を通じて自分にも自信を持てるようになり、就労訓練にも役立っている。
また多くの事業所では工賃が向上したということであり、工賃も一般的な平均工賃を若干上回っており、新たな職域開拓だけでなく、これまでの下請け作業に代わり、所得の安定および向上へ結び付く可能性があることを示している。
農業活動は心・気・体を改善するだけでなく、新しい職域開拓、工賃向上に繋がる可能性を秘めている。

7.地域との関係

事業所が農業活動を地域で始めるとき、近隣農家・農業団体の理解は「実際にやっているところを見てもらう」ことで理解が深まる傾向にある。また農家・農業団体では農業技術にかかる指導、農地確保にかかる協力を得ているが、事業所から地域へ出て農業活動をしたり、さらに規模拡大するとき、地域の協力が不可欠である。
本調査では機械の無償譲渡、受委託関係を結んでいたり、共同販売をしたりと、多様な関係性を築いており、数としては多くはないが今後、農業サイドと福祉サイドは地域において信頼関係を築くだけでなく、実質的な多様な協力関係を築きくことができるであろう。また障害者が地域へ出て農業活動を取り組めば、地域との交流、障害者の地域移行、障害者に対する理解を促進させることにも繋がるであろう。

8.必要な制度、支援

農業活動を始めたり、規模を拡大していくためには機械や施設の導入が必要となるが、購入する場合、農業は初期投資が大きいことから、助成金を活用すると良い。しかし、民間および公的な助成制度は必ずしも有効に活用されているとはいえない状況にある。一つは制度の周知が十分ではないこと、もう一つは公的制度では通年を通して公募がなく、決められた期間にしか応募できないため、それを逃すと翌年度となるため、利用が難しい。
また、農業技術の取得、農地斡旋、販売先確保などへの支援が求められている。

9.今後の展望、取り組み意向

既に農業活動に取り組んでいる事業所は工賃向上、新しく取り組みたい事業所は働く場の創出を期待している。しかし、次のことが前述したように課題としてあがっている。農業技術の取得、農地の確保、販売先の確保、障害者の作業づくりが大きな課題になっている、あるいはなると考えている。特に「今後、農業活動をやりたい事業所」では農地確保が大きな課題として挙げられている。
また職員は次のことに不安を抱いている。作業中の安全性や障害者の心身への影響や作業調整に関することなどである。既に取り組んでいる事業所は障害者の作業調整や心身への影響については実際の取り組みの中で不安は減ってきているが、取り組んでいない事業所は作業調整や心身への影響についても不安に感じ、不安は多岐にわたっている。
不安については、実際に職員が取り組み体験を積み重ね、知識やノウハウを得ていくことが重要となる。また保険などにもしっかりと加入していくことも必要である。
農業技術指導、販売先の確保、農地・機械の確保にかかる支援のためには、中間支援組織の存在が求められる。相談対応者、コーディネーター、農業技術指導者などを育成、派遣、仲介する組織が地域において必要である。ここでは農業サイドと福祉サイドだけでなく、行政、さらには民間企業が加わった地域全体の主体者による支援組織が求められる。農業活動に取り組むための福祉および農業にかかる双方の情報や人の有効なマッチング・コーディネート・仲介などを考慮すれば、市町村以上都道府県以下の規模を範囲とする中間支援組織を設置していくことが重要である。
最後に本アンケートは、農福連携の福祉サイドへのはじめての詳細かつ大規模なものであり、貴重な調査となった。農福連携の取り組みは、農業での一般雇用より本調査の対象となったこうした事業所内における取り組み、施設外就労が取り組みやすい。今後のこの調査結果を取り組みに活かし、農福連携の点、そして線、さらに面の取り組みとなることを期待するものである。
調査結果の考察