障害者就農実施施設の取り組み調査

調査結果 §1

NPO法人縁活

1)法人概要

NPO法人縁活(以下、縁活(えんかつ))は、琵琶湖の南部の滋賀県栗東市の市街地にある。新興住宅地ではあるが、農地が残る地域である。杉田施設長(以下、施設長)は、縁活を設立する前は障害者のグループホームに勤務していた。実家は代々続くイチジク農家であり、現在は父親が主たる従事者となっているが、施設長は時折農作業の手伝いをしていた。より障害者の自立を目指した事業所を立ち上げるため独立し、平成21年1月に仲間とともにNPO法人縁活を設立した。

平成21年にグループホーム、ケアホーム「すうほ」(以下、グループホーム)を、平成23年に就労継続支援B型事業所「おもや」(以下、おもや)、平成24年にグループホーム「たちきの実」(草津市)を開所した。本部は、県道31号線に面した2階建ての3軒長屋の2軒分の1階と2階を借りている。現在は、事務所および就労継続支援B型事業(以下、B型とする)の利用者の休憩室や作業場として利用している。グループホームは法人本部の裏の4階建マンションの2階の3世帯(1世帯2名定員)を借りている。

表1 NPO法人縁活の事業概要

名称事業種類定員登録者数利用人数常勤職員臨時職員備考
おもや就労継続支援B型2017152-- 
すうほグループホーム
ケアホーム
76618利用者は全員男性
家賃・光熱費・朝夕食代込で、6万円/月
たちきの実グループホーム44414 
*この表にある事業所名等の内容は、2013年3月31日時点ものです。
作業所 おもや本部
おもやの本部
グループホーム すうほ
すうほ(マンション2階の一部)

2)農業
① きっかけ

イチジクを生産することで純利益は少なくとも100万円程度となることから、障害者の事業を行えば、農業も経営としてより安定する。また、障害者にも高い工賃を支払うことができることから、イチジク生産、さらに加工・販売に取り組むこととした。職員からも障害者は十分農作業ができるということを聞いていた。そこで滋賀県内のモデルとなることを目指しスタートした。

② 事業内容
  • 就労継続支援B型事業
  • 定員20名(登録者数17名、うち1名女性)、1日の利用人数15名
  • 職員2名(1名はサービス管理責任者、1名は生活支援員の経験者)
③ 障害者
  • 知的障害者11名、精神障害者6名(知的+精神障害の重複障害者2名)
  • 平均年齢28歳(18歳~48歳)
  • 男性16名、女性1名

17名中グループホームからの通所者が1名、栗東市内からの通所は2名で、その他は大津市・守山市・草津市・湖南市から自転車および電車等により自力で通っている。

④ 農業概要
農地
平成23年に施設長の父親から施設長が個人的に無償で借りて開始した。翌年より法人として借地契約を結んでいる。
農地面積は50a、うち35aが露地栽培で、残りがハウス栽培である。ハウスでは3棟でイチジク、2棟で野菜を栽培している。
生産物
イチジク、サトイモ、下仁田ネギ、トマト、ダイコン、ハクサイ、ニンジンなど季節ごとにメインとなる品目を決めて生産している。年間を通して約20種類を栽培している。
施設、機械、資材
  • 施設ハウス4棟を父親から借りている。さらに1棟は地銀の独自の助成金約120万円(3/4)を受け
  • 機械、資材大きな機械は父親から借りている。その他、資材は縁活で購入している。
野菜とイチジクのハウス
野菜とイチジクのハウス3棟(奥)、露地野菜の15aの畑(手前)
飛び地の畑
飛び地の畑20a(畝上げ中)
指導を受けながらの畝上げ作業
指導を受けながらの畝上げ作業
無肥料自然栽培のイチジク
無肥料自然栽培のイチジク
イチジク汁と水でつくった虫取りボトル
イチジク汁と水でつくった虫取りボトル
加工・包装場
加工・包装場(本部の隣の1階)
⑤ 農業の取組み
生産方法の選定
ハウス栽培としたのは、施設長の父親が既に使用していたものをそのまま利用できるため、また、工賃を向上させるために、なるべく差別化が図れるよう有機農業に取り組むこととした。特に、無肥料・無農薬の自然栽培は使用資材も少なく、安全で、多様な手作業があり、かつ高付加価値の農産物を生産できるため、自然栽培を行うことにした。
農業技術の習得
初年度は作り方が分からなかったことから、施設長の父親に指導をお願いした。
次年度は職員を三重県の有機農家へ2泊3日の農業研修へ行かせた。また施設長自ら他の職員へ指導した。
農地で作業をしていると、近隣の農家から声をかけられ、指導を受けることもある。また障害者の中には実家が農家の者がおり、反対に職員や他の障害者に指導することもある。
職員の確保、育成
施設長や仲間のつながりで確保した。一般的には毎年2、3月は退職する者が多い季節であることから、この時期にPRし集めた。
賃金は基本給として保障し、さらに収入が増えれば今後、適宜給与をアップさせていく予定である。
障害者の確保
開所時は特別支援学校におもやの説明に行った。そして2、3年生の実習を受け入れるようにした。2年生は2週間、3年生は1週間ほどの実習に参加し、障害者はおもやが気に入ると卒業後に利用するようになった。また法人概要のチラシを作成・配布し、地域にPRした。他の事業所にも配ったが全く反応はなかった。
相談支援事業所および障害者就業・生活支援センターにも配布した。専門家が障害者の適性をみて紹介してくることから、継続した利用に結び付きやすい。反対に、親の口コミによる問い合わせもあるが、親の想いが強く、本人の志向や適性に合わない場合が多いため、利用に結び付くことは少ない。
雇用条件
  • 工賃平均1.4万円/月、最高4万円/月。
  • 保険あいおい損保(傷害保険)、グループホームと車を含め16万円/年(うち車が8万円)
農業・作業への適性判断
特別支援学校のときから実習に来てもらう。あるいは希望者にはまず1週間ほど体験してもらい、さらに可能ならば期間を延長し1か月ほど体験してもらう。この間、あえて厳しい声掛けをし、泥まみれになるようにし、それでも農業をしたいかを判断する。ただし、そもそも虫や泥まみれになることが嫌いな障害者にはできない。
本人が農業を気に入るかどうか、特に親が農業と法人を気に入るかどうかが重要である。
障害者への指導
障害者にさまざまな作業に従事してもらい、その都度本人と職員から報告を受け、次の作業を体験してもらう。できないと決めつけずいろいろ試してもらっている。そうすることでいろいろな作業ができるようになる。
最初の頃はなるべくマンツーマンで指導する。そしてできたときには、徹底して褒めることで本人のやる気を引き出している。
全員、最初はいろいろな作業をするようにしているが、次に得意な作業から従事させ、慣れてきたら他の作業にもチャレンジしてもらっている。
判断の必要な作業、たとえば選別するときのナスの大きさは、比較するナスを脇に置いて色や大きさを比べながら収穫してもらう。またオクラの収穫ではサンプルを渡し色を比較し、大きさは手の平と比べ収穫してもらう。
障害者には自分より作業ができる障害者・できない障害者と組むことで、お互いが刺激を受けるようにしている。
作業内容
  • 作業種類、割当 イチジク生産では障害者は肥料散布、除草、虫取り、選定、収穫、そしてハウスの窓の開閉作業を行っている。さらにイチジクジャムの加工、ラッピング等もしている。
    • 毎日、朝に、職員がその日の作業を割り当てている。
    • 出荷作業では、職員1名と障害者2名が車に同乗し、配達している。
    • 挨拶、金銭の授受などのやりとりを学べるように訓練の一環として障害者を同伴させている。
  • 作業体制 現在の畑の面積で受入れできる人数は10名位までであることから、残りの者は室内での加工作業などをしてもらっている。なるべく作業は交代で行うようにしている。
    • 障害者5名に対して職員1名で作業をしている。
    • 精神障害者と知的障害者の人数バランスが大切である。
    • 3年目の現在は全体で17名が従事している。
  • 時期作業は通年できるようにしており、3~12月は露地野菜の生産、12~2月はジャムの加工、ハウス内での葉物野菜づくり、露地でのダイコン・ハクサイ・ニンジンの収穫、そして畝立てなどの作業を行っている。
  • ミーティング終礼で一人ずつ、今日はどんなことをしたのかを必ず報告してもらっている。これにより就職説明会で話すときなどのトレーニングとなる。
  • 労働時間(障害者)

    1日5時間半勤務
    9:30~12:00 (労働), 12:00~13:30 (休憩), 13:30~16:30 (労働), 週休2日、土日は休業。

    • ※夏の暑い時期は、7:30~13:30の午前中に労働する。ただし、早く終え家に帰る場合、親の仕事の関係などにより受入れができないことから、事業所でしばらくの間休憩してから帰宅することもある。
    • ※忙しいときは、長時間労働になるが、その場合は高い時給を支払っている。また土日にイベントがある時は障害者にも参加者を募る。
販売
  • 出荷先

    1年目はJA出荷(市場出荷とJAの直売所)が中心で、その他は近所の朝市や飲食店に出荷した。またJAに出荷するためにイチジク部会へ加入した。

    2年目はJA出荷を止め、近所の飲食店4軒、ケーキ屋4軒、デパートへの直販を行った。

  • 価格

    イチジクはハウス栽培で早めに出荷できると400円/パック(300g)で、最盛期の露地栽培では200円と出荷時期および市場に左右される。このような状況は需給者双方にとり、不安定であることから、価格を一定の350円としている。

    他の野菜の値決めは、スーパーや市場の価格を見て決めている。基本的に価格は高めに設定し、余っても捨てるか障害者に無償で分けている。価格を下げるとその後は、その価格でしか買わなくなるためである。したがってロス率は比較的高く、現在のところ20%となっている。

収入とコスト
  • 収入とコスト

    平成23年は約100万円、翌年は310万円となった。有機イチジクであることと、自らデパートやケーキ屋に出荷したことで、より高い売上をあげることができるようになった。

    平成24年の売り上げ内訳は、トマト40万円、イチジクとジャム80万円、その他野菜で190万円を売り上げた。コストについては農業資材等で25万円程度である。

農業による効果
部屋で作業するより外で作業した方が、もめごとが少なくなる。畑にはそれぞれの障害者に対応できるさまざまな作業がある。
地域との関係
  • 農業関係者自然栽培に取り組み、地域の農家およびJAとは若干距離はあるが、まだ取り組みはじめたばかりであり、今後ゆっくりと連携をはかっていく。なお、農地の貸与および栽培指導については前述の通り、特定の農家(父親)からの協力を得ている。
  • 福祉関係者特別支援学校から実習を受け入れている。他の事業所とは利用者の取り合いにならないように配慮している。
特色
  • 小規模な組織だからこそ、動きやすく、こだわりを追求できる。
  • 自然栽培による農業に取り組んでいる。
⑥ 苦労したこと
取り組み開始前および開始時
  • 低価格初年度は生産方法が分からず、農薬と化学肥料を用いた方法で生産したことから売上が年間100万円程度であった。そのため利用者を3、4名しか就労させることができなかった。
  • 既存の農業関係者との軋轢、販路開拓そこで2年目は、こだわりの生産によって付加価値をつけるため無農薬、有機肥料栽培(牛糞・鶏糞・米ぬか等)へ生産方法を変更した。しかし、部会から「虫がついたものは一緒に出荷できない」と言われ脱会することとなった。そのため、販路を自分たちで開拓する必要があった。販路開拓のため、施設長が近所のケーキ屋20軒ほどにチラシと試食を持って営業した。そのうち4軒で契約できた。完熟で収穫した無農薬のイチジクという特色が売りになった。
  • 利用者(障害者)の確保B型を開所した当時は、利用者を確保することが難しかった。利用者数が運営基準を満たないと、事業報酬が少なくなり、経営が厳しかった。地域でのネットワークもまだまだ少なかったため利用者を紹介してもらえず、他の事業所で引き取ることができなかった障害者を受け入れていった。
  • 助成金にかかる手間厚生労働省の助成金は、申請期間が決まっており、かつ決定までに時間がかかる。
現在
  • 農業技術の取得3年目には有機肥料も使わない「自然栽培」に取り組むこととなった。この農業技術取得に現在も取り組んでいる。地域では珍しい自然栽培であることから、他の農家はおもやの畑が虫や雑草ばかりの樹園地になると考えるため、視線が厳しい。
  • 女性の障害者が集まりにくい農地にはトイレや休憩スペースがないことなどから、女性の障害者は農作業には参加しづらい。
⑦ 留意した点、工夫した点
  • 付加価値の高い、作業種類の多い、安全な自然栽培に取り組んでいる。
  • 初期投資がほとんどかからないように、父親の協力を得ている。
  • 農地の取得についても父親を通して、農家から借りて、それを縁活が借りている。なお、貸主には「息子(施設長)が障害者と農作業をする」ということを伝えてもらっている。
  • 営業は施設長および職員で行っている。
  • 出荷にあたって、金銭の授受も障害者に行ってもらっている。
⑧ 今後
  • 農業での雇用、農業法人設立将来は利用者が農業に就職できるようにしていきたい。そのためにも農業法人の設立を検討している。
  • 6次産業化平成27年には飲食事業を開始し、必要なら配食事業も展開していきたい。この事業を希望する職員もおり、また飲食事業を実施することで農産物のロスを軽減することにも繋がる。
  • 多様な障害者の受入れ重度および軽度者を含めた多様な障害者を受け入れるために、グループホームをさらに3つほどつくっていきたい。