障害者就農実施施設の取り組み調査

調査結果 §2

社会福祉法人わたむきの里

1)法人概要

社会福祉法人わたむきの里(以下、わたむきの里)は平成12年に発足し、事業所を翌年に開設した。本部は琵琶湖の南東部にある滋賀県蒲生郡日野町の平場の水田地帯に立地する。障害者の就労系事業所 としては日野町で唯一の事業所で、身体・知的・精神障害者さらには軽度者から重度者までのすべてのタイプの障害者を受け入れている。

かつて町内には無認可作業所の「わたむき共働作業所」と「日野の里共同作業所」があったが、役場との協議の上、一つの団体へ整理することになった。2つの作業所は軽度者と重度者のための法人化をそれぞれ検討したが、町から一つにまとめて欲しいと要望されたためである。こうした経緯もあり、町はわたむきの里の開設にあたっては積極的な支援を行った。

本部の土地は、町有地で30年間の無償貸与となっている。

本部の建物、備品、車等の初期費用は4億円であるが、町の助成金が1億円、残りを厚生労働省や民間の助成金でまかない、わたむきの里はほとんど無借金で開所することができた。

実施事業は、以下の表の通りである。生活介護、就労支援、生活・就労相談、障害児支援などを行っている。施設長は30代前半、職員の平均年齢は31歳と若い。

表2 社会福祉法人わたむきの里の事業概要

名称事業種類定員登録者数利用人数常勤職員臨時職員備考
わたむきの里第1作業所就労継続支援B型6076621114 
 就労移行支援600---- 
 生活介護14141123 
わたむきの里第2作業所生活介護20181567 
支援センター太陽 ------41精神障害者対応
働き・暮らし応援センター「Tekito-」生活・就業支援センター------52町の中心地に立地
ホームみらいグループホーム777118新築(ローズハイツと兼務)
ホームローズハイツグループホーム777118アパート(みらいと兼務)
放課後クラブともだち日野町障害児地域活動事業--308210・町単独事業
・保育園の跡地を無償貸与
*この表にある事業所名等の内容は、2013年3月31日時点ものです。

本章では就労系事業とは、就労移行支援、就労継続支援A型、就労継続支援B型事業とする。

わたむきの里本部
わたむきの里本部兼作業場
資源ごみの集積所 エコドーム
資源ごみの集積所(エコドーム)
就労系支援事業の概要

事業における主な内容は以下の通りである。

  • 地域の高齢者への配食サービス(行政受託)
  • 資源リサイクル(行政受託)
  • 農業
  • イチジクの食品製造
  • クッキーづくり
  • ポンせんべいづくり
  • 麩菓子ラスクづくり
  • 機械の油拭き用の古布づくり
ペットボトルのラベル取り
ペットボトルのラベル取り
放課後クラブともだち
町の障害者の放課後の学童保育所として、小学生と中学生の障害者が利用している。これは町からの行政受託で、中学を卒業するまで利用する子供も多い。一般に高校へ進学した時、障害児の情報が学校に伝わらないことが多いが、ここでは長期間にわたり障害者と付き合ってきた事業所の職員が情報を持っていることから、卒業後も仲介を果たすことがある。
地域との関係
地域の小学校4年生・6年生は総合学習および中学生は体験学習などの一環で必ずわたむきの里において、数日間ボランティアをすることになっている。したがって、地元公立の学校に通う地域の子供たちおよびその親の全員が、わたむきの里を認知している。
また拠点としては町唯一の資源ごみの持ち込み場が、わたむきの里敷地内のテントとなっており、町民の多くが日々事業所を訪問する。
就労系事業で2名のボランティアが通っている。60歳以上の定年退職者で、うち一人は元学校の先生、一人は元会社経営者である。かつては元JA職員の定年退職者もボランティアとして来ていたが、現在はわたむきの里の農業担当の職員となっている。

2)農業
① きっかけ

地域の棚田でつくり手がいなくなり、行政に頼まれて水田の管理を始めたことがきっかけである。さらに耕作放棄で竹林となっていた農地を自分たちで開墾し、農業に取り組んだ。

② 事業内容
  • 就労継続支援B型事業
  • 定員20名(登録者数17名、うち1名女性)、1日の利用人数15名
  • 職員2名(1名はサービス管理責任者、1名は生活支援員の経験者)
③ 障害者
  • 定員60名のうち7名(1名は女性)が農業に従事している。
  • 職員1名、パート1名、臨時職員1名(元JA職員)
④ 農業概要
農地
手間がかかるため開墾作業から始めることは難しい。しかし、既に借りている農家からの紹介で次々と新しい農地を借りることができた。
農地面積4.8haで、うち3.4haが水田である。農地は9戸の農家より借りている。地代は0円とし、「地代を支払うなら借りない」ということで、それでも貸してもらえるところを借りている。ただし、地域における水路の掃除、畔草狩り、イノシシ対策のフェンス貼りなどには参加するようにしている。
生産物
米と露地野菜(日野菜、タマネギ)を生産している。米は4.8ha、減反した水田1.2haで飼料稲と野菜を栽培している。
米の反収は8から9俵でそれほど多くはない。
施設、機械、資材
  • 機械、資材農地を借りて欲しいという農家の場合、今後は農業をしないので機械を譲ってくれることが多い。コンバインは離農した農家から譲り受けて欲しいとの申し入れがあり、乾燥機については中古を5万円ほどで購入している。作業用の2t車は助成金で購入した。その他の簡易な資材は購入している。
⑤ 農業の取組み
生産方法の選定
耕作放棄地の水田の管理を任されてコメ生産を始めた。コストをかけない農業、高付加価値な農業とするため、露地での有機農業に取り組むこととした。
農業技術の習得
元JA職員の指導、地域の農家によるボランティアから指導を受け、さらに施設長も学び(自らもパソコンなどで調べたり、父から教わった)、施設長も指導にあたった。土地を紹介してくれた役場の職員が指導することもあった。
職員の確保、育成
二つの作業所を統合したため、当初の職員年齢は重層的であったが、37歳の施設長に代わり職員も入れ替わり若返っている。そのため人件費も抑えられているが、年代に偏りがあるため、やがて人件費が負担になる可能性がある。
正規職員は公募しなくても、ボランティアで関わった者がパートとなり、さらにその中で正規職員になることから、職員の確保は順調である。
障害者の確保
近隣の町の障害者でわざわざ農業を希望し、わたむきの里へやって来る者もいる。またわたむきの里の中で、農業班は一般就労する者を3名輩出しており、憧れの就労の場となっているため、農業を希望する障害者は多い。
雇用条件
  • 時給利用者の時給は340~540円、工賃は高い者で6~7万円/月を支払っている。
  • 保険

    AIU保険の施設賠償保険に加入している。

    このほか「びわこ互助会」という県内の手をつなぐ育成会による知的障害児・者、自閉症児・者のための病気やケガの総合補償制度に加入している。病気やケガで入院したときの補償、他人に損害を与えたときの補償、ケガをしたときの補償、病気で死亡したときの補償などを受けることができる。年間1万円と安い。

代掻き
代掻き作業
水田の溝掃除
水田の溝掃除
除草剤の散布
除草剤の散布
日野菜の収穫
日野菜の収穫
大豆の選別
大豆の選別
イチジクの加工
イチジクの加工
道の駅でのコメ販売コーナー
道の駅でのコメ販売コーナー
日野菜の甘酢
日野菜の加工商品

農業・作業への適性判断
基本的にやる気のある者、そしていろいろな作業ができる、ある程度選別などの判断もできる軽度な障害者を選ぶ。ただし、体力がありそうな場合、試しに作業に加わってもらい、本人も喜び、状態が改善していくようであれば、従事してもらうこともある。また室内での大勢での作業が苦手な者にも従事してもらうことがある。
虫取りが得意、草刈りの機械操作が得意な者がおり、その適性に合わせて、作業の内容・比重を変えている。
障害者への指導
かつては施設長自らが行い、現在は現場の職員が指導にあたっている。
作業内容
  • 作業種類障害者は溝掃除、草刈り、肥料散布、農薬散布、収穫などを行う。日野菜、タマネギ、ジャガイモについては収穫のほか選別作業も行う。ただしトラクター操作は職員が行う。※このほか農業班は、県道の街路樹の形を整える作業も行っている。
  • 作業体制障害者6名に対して職員3名で作業している。
  • 時期作業は4月~10月までは米生産、9月中旬~11月は施設外就労でネギの選別、11月~1月上旬までは日野菜の収穫、1月下旬~2月はコンニャクイモ洗いを行っている。ネギの選別は400kgを1.1万円で受け、1日4時間半ほど作業している。職員1名が障害者5名と作業する。コンニャクイモについては事業所へ持ってきてもらい、20日間で7万円と安いが、冬期の大切な作業となっている。
  • 労働時間(障害者)

    1日4時間半の労働
    10:00~11:00 (労働), 10分間休憩, 11:10~12:10 (労働), 12:10~13:10 (休憩), 13:10~15:30 (労働), 週休2日、土日は休業。

    • ※農繁期は17時~18時まで労働することがある。
    • ※施設外就労の場合、8時半~17時半ということもある。
販売
  • 販路

    販売は米については、直販のみ行っている。米は「環境こだわり農産物」として有機農業で生産し、販売している。

    13年前の取組み当初は販売促進のため近隣にチラシをまいた。20件に1件の割合で注文があった。この注文割合は高いが、これはわたむきの里が、地域に認知されているためである。また販売促進のためサービスエリアなどでも3合400円で販売したが飛ぶように売れた。現在は道の駅では5kgおよび3合入り袋のものを販売している。主な販売先は道の駅2カ所、国民休暇村1カ所などである。飼料稲は、畜産技術振興センターへ販売している。

    直販で60件、うち個配が30件で、営業担当者2名が販売担当となっている。

    現在、注文を受けた後、近場であれば家まで米を届けている。効率的に運ぶために、利用者の送迎時に車に積んで運んでいる。遠い場合はヤマト運輸の福祉にかかる料金プランを利用している。10kgまで400円で運搬できる。

  • 価格

    コシヒカリ3860円/10kg、もち米4200円/10kgで販売している。

    日野菜は230円/袋で販売している。

収入とコスト
コメの収入は150万円/haで、1ha当たりのコストは50万円であるから100万円ほどの収益となっている。
平成24年度の売上は約380万円、コメの補助金約310万円、炭約5万円で小計約695万円、さらに受託業務約200万円で合計約895万円となっている。コストは利用者への工賃支払い約324万円、その他資材費約420万円、消費税等役43万円で、合計約787万万円である。利益は約108万円となっている。
  • 助成金転作奨励金や戸別所得補償なども受けている。
農業による効果
集団での作業が苦手でも農業なら作業ができる。
5年の間、5分も集中して作業することができない障害者が自然の中で長時間作業ができるようになった。そして集中力だけでなく体力がついた。
また、農業は自然の状況に合わせたり、仲間とペースを合わせることが必要なことから、障害者は決めたことをしっかり守ることができるようになった。
さらに自分で育てたものが、直売所などで目の前で売れていくことがとてもやる気を引き出すことにつながっている。
地域との関係
  • 農業関係者

    高齢化する地域において障害者が地域で働く姿は、地域をにぎやかにしている。

    耕作放棄地を管理しているため地域からの信頼は厚い。さらに道普請にも参加しているため、より信頼を得ている。近年は高齢化で道普請もできない農家が増え、またわたむきの里が農地を借りても道普請でさえできない農家がいる。

  • 福祉関係者町で唯一の事業所であることから、他との競合はない。だが、農業ができることを聞きつけて他地域から通う者がおり、B型として一定の評価を受けている。
特色
  • 地域で唯一の就労系事業所である。
  • 身体障害者、知的障害者、精神障害者、障害児のすべてを受け入れている。
  • 行政からの多くの委託事業を実施し、行政との関係は極めて良好である。例えば、資源ごみの回収についても、行政からの委託費+資源ごみの業者への販売収入のほか、さらに行政からの重量に応じた成果報酬を得ることができるようにしてもらっている。
  • 職員の年齢が全体的に若い。
  • 地域の公立小中学校に通う子供たちはわたむきの里を体験で知っている。また、ごみの持ち込みのため、町の大人が事業所を訪問する。
  • 事業開発部会を設置し、専属の営業担当を2名配置している。うち1名は有名百貨店の元営業マンで、営業担当2名の給与は、就労系事業の5000万円の事業収入から捻出している。
  • 農業班は、わたむきの里の就労系事業の中で、障害者にとっての憧れの場となっている。
⑥ 苦労したこと
取り組み開始前および開始時
  • 農地の賃貸2004年から本格的に農業に取り組もうとしたが、農地を貸してもらえなかった。そこで施設長ともう一人の担当者が個人で借りた。
  • 行政情報の普及が不十分社会福祉法人が農地を借りることができるということを知らなかった。
  • 農業法人の設立断念農地を借りるために農業法人をつくろうとしたが、職員も150日以上従事することができないことから断念した。
現在
  • 農地を借りることによる地域との衝突最近、農地を借りて欲しいというニーズが出てきているが、事業所は借りると草刈りまでするが、他の専業農家はそこまで手が回らないことから、農地管理のために農家からの事業所への依頼が多い。そのため専業農家と、農地利用についての衝突が起きることが予想される。現在、農地を農家の紹介で借りているが、初めの頃は「本当は俺が借りる土地だった」と誤解された。ただし誠実に謝りに行くことで関係が大きく改善した。
  • 専門技術の取得職員のより高い専門技術の取得が課題となっている。常勤職員、臨時職員、利用者ごとの役割分担を明確化していくことが重要となっている。
  • 農地管理のニーズに応えられないこれまでの実績をみて、地域から農地を借りて欲しいというニーズがあるが、人員体制が整っていないため、またこれ以上は機械投資が必要となるため、農地も分散しているため、ニーズに応えることが難しい。
  • 農業班の職員確保若い職員が多く、農業班の職員を確保することが難しい。
⑦ 留意した点、工夫した点
  • 地代は払わなくて良いところを借りる。
  • 機械はなるべく譲り受けるか、中古を購入し、初期費用を抑えた。
  • 機械はすべてをオートでできるものにはしていない。障害者の作業を奪うため、手作業の部分をあえて残している。