障害者就農実施施設の取り組み調査

調査結果 §3

株.サニーリーフ彦根農場

1)法人概要

株.サニーリーフ彦根農場(以下、サニーリーフ)は、琵琶湖の東部の滋賀県彦根市の住宅地と水田に囲まれた場所にある。サニーリーフは滋賀県で最大手のスーパーである株式会社平和堂の特例子会社である。

山本代表取締役社長(以下、社長)はサニーリーフへ出向し、1名の常勤役員は平和堂を定年退職した再雇用者で本社より出向している。社長は10数年間、スーパーで店長を経験し、特にバイヤーとして農産物を扱っていたことから流通に詳しい。

平成24年3月に株式会社を設立し、同年5月には「認定農業者」認定を受け農業生産法人となった。平成24年8月には厚生労働省「重度障害者等多数雇用施設設置等助成金」受給が決定し、平成25年1月には栽培棟・作業棟・管理棟を竣工した。平成25年2月より障害者および職員の雇用を開始し、播種および定植作業を開始した。平成25年3月に特例子会社認定を受け、収穫および販売を開始した。

表3 株.サニーリーフ彦根農場の事業概要

名称事業種類常勤役員雇用障害者数健常者職員備考
サニーリーフ彦根農場特例子会社215(知的11, 精神4)2・親会社 株.平和堂
・7名のシニアアルバイト重要員
*この表にある事業所名等の内容は、2013年3月31日時点ものです。
2)農業
① きっかけ

平和堂の社長から、「(1)お客様により安心安全な野菜をお届けするために、自ら温室での水耕栽培ができないか、(2)併せてこうした施設ならば障害者も働くことができる環境をつくれないか」 という提案があった。また自分たちで生産できれば消費者にとっては目に見える安心できる農産物を入手でき、障害者にとっては新たな働く場となるためである。

当時、平和堂では既に障害者法定雇用率 は2%を超えていた。スーパーでは店舗従業員100~200名のうち数名が障害者と少数であったが、特例子会社は障害者は同じ仲間と働くことができ、働きやすい。

② 事業内容
  • 特例子会社
  • 障害者雇用数15名(知的障害者11名、精神障害者4名)
  • 常勤役員2名(社長と本社の出向者の部長)、健常者従業員3名
  • その他シニアアルバイト従業員7名(地域の65~70歳で、1日当たり3名が勤務)

平成25年4月より「障害者法定雇用率制度」の法定雇用率が1.8%から2%へ引き上げられた。これによって、50名(以前は56名)以上の労働者を雇用する事業主は障がい者を雇用しなければならないことが法的に義務づけられている。

③ 障害者
  • 障害者は知的障害者が中心で、ほかは精神障害者で特に軽度な障害者が多い(療育手帳の区分ではB1、B2)
  • 彦根市・東近江市・甲良町・長浜市より通勤している。多くは自転車通勤であるが、なかには1.5時間かけて公共交通機関等を利用し通勤する者もいる。
④ 農業概要
農地
農地ではなく、生糸工場の跡地を借りている。当初は農地を利用した温室栽培をすすめたが、予定期間内での調整がつかず断念することとなった。そこで平和堂と関係のある平和観光開発所有の当該地を借りることとした。
生産物
水耕栽培の薬味ネギ、リーフレタス、フリルレタス、サラダ菜、セロリ、春菊等。
年間4万kgを出荷予定、歩留まりは作物にもよるが75~95%となっている。現在は試験的な状況にあるが、徐々に安定していきている。
施設、機械、資材
  • 施設施設整備の費用は全体で2億円、そのうち1億円は助成金、残りは平和堂より融資を受けた。
  • 機械、資材

    水は地下水を利用している。

    水耕栽培の装置は大阪府のA社のシステムを採用した。選別や包装などの作業にかかる機械や資材については助成金の対象とするために、入札により購入した。

⑤ 農業の取組み
生産方法の選定
露地やハウスでの土耕栽培は農産物にとって自然環境に影響されやすいがハウスなどの施設栽培であれば、影響を受けにくい。水耕栽培は出荷計画が立てやすいことから、安定供給が見込める。また障害者にとっても一定の環境で生産することから取り組みやすく、そして水耕栽培は装置によるものであるためマニュアル化しやすい。従来の農業のように経験や勘を必要としない。
しかし、完全密閉型の水耕栽培ではなく太陽光を利用したハウス栽培の方が本来の農業の姿と考え、自然光利用型水耕栽培を導入した。
水耕栽培の装置の選定にあたっては、多品種の作物の生産に対応できることを重視した。また、空調・温度・液肥は自動制御され、ネット経由で運転状況やモニターカメラでの確認もできる。そして栽培にかける時間を短縮できる分、障害者の労務管理に十分時間をあてることができることが安心できる点としてあげられる。
播種
播種
苗の育成
苗の育成
ハウス内の様子 1
ハウス内の様子 1
ハウス内の様子 2
ハウス内の様子 2
制御装置
制御装置
送風装置と開閉窓
送風装置と開閉窓
農業技術の習得
  • 取り組み開始前実務を通して社長と部長が健常者従業員に指導し、分からないことや困ったことがあるとメーカーに相談し、メーカーによる助言や指導を受けている。開業後1、2週間は、メーカーより現場指導に通ってもらった。その後は何かあったとき週2、3回来てもらうことがあった。また種苗会社にも生育に関して、電話で相談した。
  • 取り組み開始後メーカーが近いことから、現在も装置の扱い、虫対応、生育対応がなどを中心に必要に応じて現場指導に来てもらっている。メールで写真を添付し、指導を受けることもある。
職員の確保、育成
ハローワークを通じて3名の健常者従業員を新たに採用した(障害者の指導をする主任として)。あえて福祉関係の経験のない者を採用することで、障害者へのお客様意識を排除した。
募集にあたっては、農業を通して障害者と一緒に働くということ、時給を明記し、それでも働きたい者を募集・採用した。また、社長の勤務する(この当時は、スーパー勤務の傍ら)スーパー本部の課長クラス30~40名ほどにもチラシを配布し、紹介をお願いした。
障害者の確保
  • 採用方法

    ハローワークへまず相談に行った。併せて生活・就業支援センターの紹介も受け、そこでもさまざまなアドバイスをもうらことができた。

    採用のための準備チームを発足し、これには障害者職業センターにも加わってもらい、4者で進め方や方法を決めていった。

    まずハローワークを通じて公募し、次に説明会を開催した。その後、面接を障害者一人一人と行い、さらにトライワーク制度(滋賀県単独の制度で企業は必ずしも採用しなくて良い体験的な制度)を活用し平和堂のスーパーで実習を行い、働きぶりを見て採用を決めた。1店舗当たり2、3名を受け入れ、4店舗で7日間/名ほど3クールに分けて実施した。なお、この時点では施設がまだ完成しておらず、店舗での実施となった。

    一回目の募集で11名を採用し、二回目の募集で4名を採用した。

  • 障害者採用基準毎日、自分で通勤し働くことができれば良い。また会話に対する一定の理解力が必要である。
雇用条件
  • 時給障害者は716円(10/26より730円)、3名職員は800円、シニア職員720円(10/26より730円)。
  • 福利厚生雇用保険、社会保険(厚生年金、協会健保)を適用している。
農業・作業への適性判断
採用時に、農業ができる、農業がやりたい障害者を募集した。
障害者への指導
主任(健常者従業員)が実務のなかで行っている。まず障害者には生活リズムをつくり、そして仕事のスキルを身につけてもらう。
作業内容
  • 作業種類、割当

    一日の作業は、部長が作成した「標準作業割当表」により30分ごとに決められている。朝、事務所で一日の作業を確認することと、作業場にもその紙を貼りだし、常に確認できるようにしている。また分かりやすくなるべく作業工程を図式化し、現場ごとに掲示している。なお、割当表は親会社平和堂のスーパーで利用していたものを応用し、30分単位で細かく作業シフトを組んだものである。

    障害者の作業内容は、播種・定植・収穫・選別・袋詰めで、障害者の特性に合わせて作業内容を決めるが、出荷状況を勘案しながら原則として全員にすべての作業をしてもらえるように割り当てている。ただし播種は難しいため4~5名しかできない(これらの障害者の2、3倍も時間がかかる者にはさせていない)。

    作業能力の評価のために次のことを実施した。

    例えば、薬味ネギ一箱分のトリミング(選別作業)をどのくらいの時間で行うことができるか評価する。作業時間と見た目と両方で評価し、最も早い者を100と指数化した。この手法は近隣の特例子会社から学んだ。

    主任は基本的には障害者の作業のやり方と進捗状況を管理している。見守りと指導を中心に行い、その合間に一緒に作業をしている。

作業の流れ図
作業の流れ図(ルビがふられている)
作業場の類型
作業場の類型
  • 作業体制

    障害者5名に対し主任1名で班を構成し、3つの班に分かれている。

    このほかシニアアルバイト従業員(65~70歳)を雇用している。これらの人々は地域への広報部隊となり、会社の近況を地域に伝えてくれる存在である。シニアアルバイト従業員は9時~12時までの3時間労働で、現在は7名が登録し、一日3名が働いている。

  • 時期

    通年栽培を行っている。

  • 労働時間(障害者)

    1日6時間勤務
    8:00~10:00 (労働), 15分間休憩, 10:15~12:15 (労働), 12:15~13:00 (休憩), 13:00~15:00 (労働), 週休2日、日曜日は休業、その他に交代で平日に1日休暇。

販売
  • 販路生産物は全量を平和堂へ出荷している。名神高速彦根インターの近くに平和堂の集配センターがあり、そこへ農産物を運び、そこから他の商品と一緒に各スーパーへ配送してもらっている。集配センターにはサニーリーフの車で職員1名と障害者1名で運んでいる。近くの平和堂スーパーには直接運んでいる。
  • 価格価格は社長が市況を判断し、平和堂のバイヤーと交渉し決めている。98-148円の間で価格を設定している。集配センターから他店舗へ配送してもらうために平和堂に対して5.1%の手数料を支払っている。
収入とコスト
  • 初期費用前述の通り、全体で2億円、そのうち1/2は重度障害者等多数雇用施設設置等助成金を受け、残りは平和堂より融資を受けた。
  • コストコストは人件費、光熱費、地代+配送費、包装費+種代、肥料代+薬剤費が主である。
農業による効果
障害者にとっては、働く実感をしてもらえている。野菜の緑に囲まれた中では、穏やかに仕事ができる。彼らにとっては、この緩やかな空気感が良い。
地域との関係
農地借用にあたり地域の農家の十分な理解を得るに至らなかった。しかし、ハローワークや行政とは緊密な関係を築いている。また、地域のシニアアルバイト従業員の雇用もあり、現所在地の地域との関係づくりは良好である。
今後、地域の農業関係者との関係を構築していくことを考えている。福祉関係者については、ハローワークなどの行政の関連機関との連絡を必要に応じて適宜とっている。
本社との関係
  • 取組み開始前初期費用の一部を融資してもらった。設立準備において各部署に相談した。
  • 取組み開始後生産物を全量買い上げてもらっている。
特色
  • 障害者が一般の会社で働いている。
  • スーパーの子会社が系列会社として、初めて農業に取り組み、水耕栽培を行っている。
⑥ 苦労したこと
取り組み開始前および開始時
  • 開業までの短い期間厚生労働省の助成金を受けるため、1年余りのスケジュールの中ですべてを完結させなければならなかった。
  • 農地取得当初は農家から農地を借りる予定で話し合いをしていたが、最後に全員の農家からの了承を得ることができなかった。この地域では農業経営改善計画の提出にあたって、周りの農家の了承が必要であった(土地改良区や農業委員会の同意だけでなく)。所有者は同意していたが、綺麗になったばかりの土地改良区であったことから反対する者がいた。時間があれば(助成金申請まで時間がなかったため)、説得できる可能性があったということである。
  • 農地でないことによる負担用地が農地ではなかったため、農地よりも厳しい建築基準で、鉄骨や地面を強化する整備が必要となり、コストがかかった。例えば鉄骨の強度を増したり、1000m2ごとに防火壁を設けたり、ボイラーは分散させるのではなく外の一カ所へ集中させる必要があった。建坪は3000m2より小さくしているが、これを超えると土壌調査なども必要となり、より時間がかかることから2997m2とした。
  • 多数の障害者雇用最初から15名の障害者雇用をすることとなったが、集めるのに大変だった。しかし、やってみればできることだった。
現在
  • 障害者の時給が一律であり、能力により差をつけていきたいが、十分な評価および支払うことができる売上がない。
  • 生産量を安定させたい。
  • コスト削減をはかりたい。土地の賃借料が高い。
⑦ 留意した点、工夫した点
  • 福祉施設ではなく、一般の会社が障害者の就労を考えるという観点を重視し、福祉関係の経験のない者をあえてスタッフとして採用した。
  • 採用後は、社内でのメールの使用を禁止している。メールは障害者同士が、誤解し合ってもめることもあった。また、職員への連絡も基本は電話としている。重要なことはなるべく会って話すようにしている。
  • 障害者にはいろいろな作業ができるようにチャレンジする作業割当を組んでいる。
  • 30分間隔の作業割当を行っている。
  • 作業効率が把握できるように、一人一人評価している。
  • 収穫後の作業は、社長の経験を活かし、作業台など多くのものを移動しやすくし(例、水槽も移動できる)、作業を効率的にできるようにしている。一部屋ですべての作業ができるようにしている。また作業台の高さも疲れにくいものにするなど、身体への負担も少なくしている。作業台はふき取りやすいもので、衛生面を配慮したものを導入した。
  • 作業割当、作業時間の評価、導線の確保などは平和堂のスーパーや近隣の特例子会社のノウハウを応用している。
  • 農産物販売にあたっては、最初は様子をみるためにあえて低価格で販売した。
傾斜した排水溝
次の作業にすぐに移れるようにした傾斜した排水溝
セロリの出荷
セロリの出荷作業
⑧ 今後

安定供給体制を整備し、事業継続をはかれるようにしていきたい。そのために生産、運営にかかるノウハウを早く確立する、より作業効率を上げていく、より高い価格で販売できるようにしていく。

現在の事業が安定したら、他の地域でも水耕栽培に取り組んだり、露地栽培を行ったり、直売所を開設し、地域の野菜なども売っていきたい。