農家、農業法人等における障害者福祉事業所との関わりについてのアンケート調査

01.農作業委託の取り組み状況

本調査は、障害者福祉事業所と農家等のマッチング事業などに取り組んでいる県、県から委託を受けた団体などを介して調査を行ったことから、農作業委託をしているとの回答が多くなっている。
農家等が農作業委託をするきっかけとなったのは、調査対象先がマッチング事業を行っている県が多いため、そのコーディネーターや意欲の高い県職員等からの紹介や問い合わせに応じて、開始するケースが多い。香川県ではコーディネーターと農家等の間にさらにJAや生産部会も仲介に加わっており、JAや生産部会からの紹介や問い合わせに応じて開始する傾向がみられる。
その一方で、3割近くの農家等が障害者福祉事業所の関係者からの問い合わせに応じて委託を開始しており、これらは県の事業が始まる前に開始しているところが多く、地域における障害者福祉事業所と農家等の関係性の中で委託が始まったと考えられる。つまり最近、委託を開始している多くは県の事業が開始されてからコーディネーターや県等の職員が関与しているといえる。
委託開始時の委託の目的についてみると、農繁期の手伝いを期待して始めたとするのが8割を超え、さらに担い手不足のために農地管理をしてもらうためとするのが4割強、そして農地の維持が多かった。委託当初から障害者を農業の担い手と位置付けていたことが窺える。なかには規模拡大を図ることを目的にするケースもみられ(22.9%)、障害者への期待は高かったと考えられる。これは現在の委託目的でみても同様の傾向にあるが、規模拡大を図ることを目的とする割合が30.0%に増えており、障害者を農業の担い手として期待する傾向がより一層高まっていることが分かる。特にマッチングがすすみ障害者の作業実績を実感している香川県においてこの傾向が強い。また委託を通じた障害者との交流などによって、農家等における地域貢献意識の醸成にも繋がっていると考えられる。

02.農作業委託の内容

農家等が委託している農産物は「野菜」、「果樹」、「花卉等」が多い。「米」については機械化・省力化されており、家族労働などでも十分に作業ができるため少ないと考えられる。委託している作業内容については、さまざまな作業を委託しているが特に多いのは「収穫」、「草取り」、「運搬」、「定植」といった肉体的な負担が大きいものや一時的に人員を要するものとなっている。
年間の委託作業日数は、1か月未満が半数近くを占めるが、100日以上は17.1%もあり、障害者は一時的な作業要員としてだけでなく、1年を通した農業の担い手としての役割を果たしているといえる。特に、農家等が農作業を委託するだけでなく、加工・販売等の委託もしている場合、作業期間は「通年」となっているところが多い。農作業は地域の気候、時々の天候、栽培できる期間、地域で栽培できる作物種類などに左右されるため、1年を通した作業をすることが難しい側面もあるが、加工・販売等を加えることで、障害者福祉事業所にとっては年間を通した作業が確保でき、農作業受託をしやすいと考えられる。
1日の作業人員体制は、障害者福祉事業所が施設外就労加算を得るために職員1名に対して障害者3~5名となっているところが多い。作業量が多くなる場合は、職員や障害者もそれに合わせて増やしていると考えられる。ただし、ヒアリング調査によれば作業量が多すぎる場合、人員が確保できず農作業を受託できない障害者福祉事業所もある。しかし、コーディネーターが複数の障害者福祉事業所が共同で作業するように調整し、農家等のニーズに対応している県もある。

03.契約等のすすめ方

作業委託にかかる内容・量・委託料の調整は、主として県のマッチング事業におけるコーディネーターの役割(業務)によって異なっている。県がそれらの調整をコーディネーターの役割としているところは、コーディネーターが間に入って調整している。また県の事業が始まる以前から委託を行っている農家等は障害者福祉事業所と直接交渉していると考えられる。特に契約については県のマッチング事業の内容によって異なっている。基本的に農家等と障害者福祉事業所が直接契約するケースが多いが、香川県では県がマッチング事業を業務委託している福祉の中間支援団体が間に入って契約をしている(障害者福祉事業所-中間支援団体間で契約、中間支援団体-農家等間で契約し、農家等は障害者福祉事業所とは契約を結ばない)
なお、委託料については、1日当たりのパート等の作業面積や作業量から算出するケースが多い。それ以外ではコーディネーター等が基準となる農家等が委託しやすく、障害者福祉事業所が受託しやすいおおよその金額を提示している。委託料の年間総額は、100万円未満が多いが、一部ではそれを超える金額を支払っている。長年委託契約を結んでいる障害者福祉事業所へは多くの委託料が支払われており、①障害者の作業量が増加、②作業技術(作業の質)が向上、③障害者にいろいろな作業能力があることを理解し他の作業も委託、④信頼関係が構築されることなどによって、高くなったと推察される。また、農作業に加え、加工・販売等の他の作業を委託することでも委託料は高くなっている。
こうした加工・販売等の委託は通年作業の確保および委託料の向上に繋がることから、今後、農福商工連携への広がりが期待される。

04.現場での作業等

作業を委託するにあたって農家等は事前に、障害者のために作業内容を検討したり、障害者を受け入れるための心づもりとして既に作業委託している農家等に話を聞いたり、視察に行ったり、福祉などの研修会・セミナーに出席している。また、一部では休憩所・農器具・トイレなどを整備している。さらに近所の農家や住民への事前説明を行うなど地域に配慮していると考えられる。
障害者とほとんど触れ合う機会のない農家等が障害者を受け入れるためには、実際に見たて、感じることが重要であることが窺える。また障害者、中でも特に女性の障害者のトイレの確保が重要である。
農場での農業技術の指導については、委託者である農家等が行うケースが多いが、指導役としての支援員(サポーター)制度を導入している県や障害者福祉事業所の職員が農家などの出身で農業技術を持っている場合は、サポーターや障害者福祉事業所職員が障害者への指導を行い、農家等は指導を行わない。
また日々の作業管理については、農家等が行う場合とそうでない場合に分かれるが、行っていても農家等が障害者へ直接指示するのではなく、障害者福祉事業所職員へ指示し、職員が行っている。契約内容によるが基本的には農作業委託(請負契約)であることから、受託した側(障害者福祉事業所側)が作業管理を行わなければならない。
また、委託した後も状況やニーズに応じて、適宜委託作業内容や委託料を見直している。

05.効果

農家等にとって、委託をしたことで障害者に対する理解が深まったというのが最も多い(57.1%)。委託は今まで触れ合うことの少なかった障害者との交流機会になっていることが分かる。また障害者が作業に加わることで、自分たちの労働負担が軽減され新たな作業ができるようになり(47.1%)、耕作面積が維持できるようになっている(42.9%)。さらには収穫量が増えた(18.6%)、耕作面積が増えた(18.6%)、そして収入まで増加している(17.1%)と回答している。香川県のヒアリング調査では「1.2~1.3倍に耕作面積が増えた。ニンニク生産では、生産する農家戸数は減っているが1戸当たりの耕作面積は増加している。」という。前述したように、こうした香川県では規模拡大を図ることを目的に委託している農家が多い。
半数の農家等が作業をしている障害者に変化があると実感している(50.0%)。その中で悪化したというのは0で、94.3%(「無回答」(4.3%)・「分からない」(45.7%)を含めると、全体では47.2%)が精神状態が良くなった、31.4%(全体では15.7%)が身体状態が良くなったと感じている。
農作業委託が障害者との交流、障害者を理解する機会となり、担い手不足にある農家等の労働負担を軽減すだけでなく、耕作面積も収入も増やすことに繋がり、障害者福祉事業所および障害者が地域農業を支える存在になっている。そして障害者にとっても、心身の状態が改善している可能性を示している。

06.課題

委託にあたって課題となっているのは、農作物や天候に合わせた障害者福祉事業所による作業の臨機応変な対応、障害者福祉事業所間の技術格差や技術水準のさらなる向上などの一定水準の農業技術の習得などとなっている。
前述した通り、農作業は時々の天候、栽培できる期間、地域で栽培できる作物種類などに左右される。また早朝からの作業、夜遅くまでの作業、土日・祝祭日などの作業もある。そのため臨機応変な対応が求められる。しかし、障害者にとって、特に精神障害者の場合の体調管理が他の障害者に比べ難しい側面がある。また就労継続支援B型や生活介護などの事業として実施している場合、就労を目的としたシフト勤務などの臨機応変な対応をすることが難しい側面がある。
障害者福祉事業所間の差が生まれているのは、障害者福祉事業所(障害者)が行うことのできる作業量や内容が、①障害者福祉事業所における農業の位置づけ(就労訓練、就労、レクリエーション、ケア等)、②障害者の障がいの状況、③障害者の意欲、④職員の意欲、⑤職員の技術水準などによって、異なっているためと考えられる。
農家等にとっては、特に長年障害者福祉事業所に委託するようになると、作業のスピードアップやより高度な作業を要求するようになる傾向にある(一方で障害者福祉事業所には、そのための農作業担当の職員の確保など人員体制を整備することが難しいという側面がある)
また、現場では障害者の利用するトイレ・休憩所が必要になっている。ヒアリング調査によれば、トイレを利用する場合、多くは近隣のコンビニエンスストアや公共施設、あるいは障害者福祉事業所関係者などの知人の家のトイレを利用させてもらっている。

07.今後の意向

これまでより多くの作業種類や作業量を委託したいというところが65.7%にまで達している。またやめるは0、縮小は1.4%しかない。
一度、障害者に委託するようになると、継続して委託することが多い。さらに長年委託している農家等は、障害者への信頼が醸成され、かつ自分たちの高齢化によっていろいろな作業ができなくなったり、あるいは委託により収入が増加することによって、より多くの作業委託を期待するようになっていると考えられる。

08.事業所からの農作業受託について

障害者福祉事業所から農家等が受託する農作業はほとんどない。

09.農作業以外での作業委託、作業受託について

農作業以外での障害者福祉事業所への作業委託の状況についてみると、3割の農家等が農作業以外の作業を委託し、この10年以内に開始している。その委託内容は農産物の販売や加工、さらには規格外農産物の販売や加工となっている。
障害者福祉事業所は食品加工機械を所有し、また簡易直売所・カフェなどを運営しているケースも多いため、小ロットや規格外品の農産物を加工したり、販売していると考えられる。和歌山県や岩手県では加工、福島県では販売などに積極的に取り組んでいる障害者福祉事業所がある。
反対に障害者福祉事業所から農家等が農作業以外での作業受託を行っているのは0である。

10.農作業以外での協力関係について

農家等が障害者福祉事業所に農作業以外で何か協力しているというのは14.8%、今後協力していきたいというのは45.7%に達している。主な協力内容は「農業技術指導」(5割)、「資材提供」(3割強)である。その他、機械の貸し出しや農地の貸し出し、人を紹介するなど農家等が既に有している物、無理なくできることなどを提供、協力している。協力のきっかけは、障害者福祉事業所からの問い合わせに対応して始めることが多い。
なお、農家等はすべてこの10年以内に協力を開始している。これは昨年度のアンケート調査結果(農林水産省「平成25年度都市農村共生・対流総合対策交付金」事業における『農と福祉の連携についての調査研究報告』 特定非営利活動法人日本セルプセンター)の農業活動の取り組み開始時期は10年未満が多くなっていることと関連していると考えられる。障害者福祉事業所が本格的に農業に取り組み始めたこの10年間に、障害者福祉事業所が農業に積極的に取り組むようになったため、協力関係が生まれてきた可能性がある。
「農地貸し」は有償で行われており、昨年度の前掲アンケート結果でも多くが有償であった。「農業技術指導」については無償で行っているケースが多く、農家等による福祉への地域貢献意識などが背景にあると考えられる。

11.今後の取り組みについて

農福連携にかかる障害者福祉事業所へ今後期待したい分野は農作業(86.4%)と地域の農地管理の担い手となること(43.2%)で、障害者に対して極めて高い割合で農業の担い手となることを期待している。さらに加工(43.2%)や販売(40.7%)への期待も高い。
今後は、農作業だけでなく加工・販売等にまで作業の拡大を期待していることが窺われる。これは前述した通り、障害者福祉事業所にとっても、通年の作業確保や高い委託料の実現にも繋がることから農福連携だけでなく農福商工連携への取り組みの広がりが望まれる。
しかし、農福連携をすすめるためには、福祉側と農業側をマッチングすること(67.9%)、そのためのコーディネーターの存在(51.9%)が欠かせない。
また取り組みを始めるにあたっては、特に助成金等にかかる情報(53.1%)、障害者へ指導等を行うサポーターを望んでいる(40.7%)。これは開始時の農業機械や施設の導入、技術指導、作業支援のために助成金の情報が求めれていると考えられる。また農家等にとって障害者を受け入れるために、より多くの障害者福祉事業所職員以外のサポーターなどの支援があると心強いという側面があると考えられる。

12.おわりに

本調査研究は、既に農作業を委託している農家等および加工・販売等を委託している農家等を中心に、かつ積極的にマッチングに取り組む県などを中心に行ったが、各県においてまだ取り組み始めたところが多いこと、全国での調査をすることができなかったことから、回答数が必ずしも十分とはいえないなかでの集計・分析となっている。また委託を取りやめた農家等は含まれていない。そのため、さらなる定量的な調査研究については今後の課題となっている。
しかし、このアンケート調査を通して農福連携をすすめていくにあたっての有益な結果が明らかになっていることから、最後にその要点を整理する。

効果

  • 障害者の行う作業は、多岐にわたっており、障害特性に合うさまざまな作業が農業にはある。
  • 障害者が農作業に積極的に従事できるようにすることで、農家等は耕作面積を維持できるだけでなく、耕作面積を拡大し収量を増加させることに繋がっている。またその結果、農業収入が増加している。
  • そしてこうした効果を実感する農家等は、障害者を農業の担い手として認識し、期待している。
  • 障害者にとっても、心身状態の改善がみられ、加えて農家等と障害者の交流に繋がっている。

    つまり、障害者は農業の担い手となり得る可能性を十分に持っているということが明らかになったといえる。

農福連携の今後の広がり

  • 農作業受委託をより広げていくためには、農家等と障害者福祉事業所をマッチングさせるコーディネーターの存在が欠かせない。さらに農作業受委託の開始当初は、現場で作業補助を行うサポーターの存在があると、より農家等にとっては心強く、障害者福祉事業所にとっても職員および障害者が慣れるまでの間の大きなマンパワーとなる。
  • 現場では、トイレや休憩所等の整備が、現在、大きな課題の一つになっている。
  • 農作業委託が長期にわたるようになると、より高度な農業技術およびそのための指導支援が求められる。
  • そして今後、農家等は農作業の委託だけでなく農家等の生産した農産物の加工や販売等の委託にも大きな期待を寄せている。これは障害者福祉事業所にとっても地域の気候などによって通年作業が難しい農業だけでなくより多くの委託作業を確保することに繋がる。農家等にとっては、小ロットや規格外農産物を販売することにも繋がり、さらなる収入向上の機会となる。

    つまりコーディネーターを中心としたマッチングの取り組み、トイレや休憩所等の整備、より高度な農業技術の指導を受けることができれば、農福連携は今後さらに広がる可能性がある。加えて、加工・販売等の6次産業化、農福商工連携への取り組みが期待される。

いちごの選別作業