県における農作業等にかかる作業受委託のマッチングについての調査

農作業受託にかかる農家、農業法人等と障害者福祉事業所のマッチング事業

事例 香川県

01)経緯
香川県では現在、NPO法人香川県社会就労センター協議会(以下、就労センター)が、県内の就労継続支援事業所(A型・B型)・就労移行支援事業所の施設外就労や生活介護の中で農作業受託にかかるJA(農家・生産部会等)および農業法人とのマッチングを行っている。
香川県は平成20年に「香川県工賃増額支援計画」を策定し、厚生労働省の工賃倍増事業の一環で試行的に開始した。県健康福祉部が障害者福祉事業所に情報を提供し、県農政水産部は農家などに情報提供し、県の健康福祉部と農政水産部が農作業と障害者をマッチングさせる。県がマッチングを就労センターへ委託し、就労センターが実施している。
平成23年度に「共同受注窓口」の事務局を就労センター内に設置し、平成24年度より「かがわ工賃向上指針」の目標工賃へ向けた県のモデル事業として取り組み、平成26年度からは「共同受注窓口機能強化事業」として実施している。
農家にとっては特に農繁期の人手が不足し(これまで農作業委託していた作業者も高齢となり、重たいものを運ぶことが年々厳しくなっている)、事業所にとっては新たな仕事先を見つける必要があった。また、農業にはいろいろな作業があるため、単独の事業所ですべてを受託することは難しかった。さらに農家や事業所は交渉する手間がかかるといったことがあった。そこで就労センターが福祉側と農業側をマッチングする役割を担うことになった。
02)契約主体
契約は福祉側と農業側が直接取り結ぶのではなく、間に就労センターが介在する。つまり「福祉側-就労センター」および「就労センター-農業側」の間で契約する。
03)コーディネーター
2名のコーディネーターを配置している。いずれも農業および福祉の経験者で、かつ他業種における職務経験のある60代である。
04)地域連携
平成24年度に県、就労センター、JA、中小企業同友会、校長会、その他の民間事業者を加えた共同受注窓口運営委員会を設立した。そしてこれらの関係機関の連携を図るため、年2回集まり、報告会を行っている。これにより、情報共有と責任の所在などを明確にしている。
なお、当初、JAは支店長が参加し意思決定を行っていたが、組織全体の決定とするため役員が共同受注窓口運営委員会に参加している。
05)役割
JAが生産部会等を通じて農家ごとの作業内容表(カルテ)を作成し、農家の要望を取りまとめる。それをコーディネーターが募集をかけ、マッチングさせていく。
また作業の段取りや作業内容、さらに作業報酬(委託料)はJAとコーディネーターとが調整し決定する。農業法人からの農作業受託の場合は、就労センターと農業法人の間で調整する。
事業所の選定・仕事配分はコーディネーターが、障害者の人選は事業所職員が実施している。このうち事業所職員は作業工程を分解し、作業のやり方を工夫する。
事業所ごとに農作業を行う障害者・事業所職員が農場に来る時間、帰る時間を決めており、また作業の割り振りや人員配置も事業所職員が考えている。こうした柔軟な対応によって、参加する事業所の増加に繋がった。
なお、様式の作成は就労センターが行った。
06)研修等
農家、農業法人等が障害者のことを理解できるように、実施前にJAの責任者、農家、農業法人等を対象に研修会を数回開催した。研修会はJAが窓口となって行った。次に部会として障害者就労の受入れ体験会を行ってもらい、農家にはそれを視察してもらった。
こうした視察や口コミを通じて委託を希望する農家、農業法人等は増えていった。
07)作業報酬
作業報酬は時給制ではなく、担当する作業量や作業面積単位で決めている。報酬の決定にあたっては、就労センターが、JAや農業法人とともに県を交えて行うようにしている。現在、作業内容等に合わせたさらなる報酬の向上を検討している。
なお、受託金額の10%を経費として、就労センターが受けとっている。
08)実施状況
就労センターに加盟する85事業所中23事業所が農作業受託を実施し(県内には就労支援事業所は94)、委託する農家・農業法人は約40件、受託農地面積は約30ha(3年前は6件で1ha)へと拡大している。年間延べ参加利用者(障害者)数は、平成21年度は1,283人であったが、平成25年度には5,936人となっている。就労継続支援B型事業所が中心となって取り組んでいる。
09)実施体制
作業にあたっては職員1名に障害者3名以上で取り組むこととしている(施設外就労加算を取得するためには3名以上が必要であるため)
10)主な作業内容
作業はニンニクの収穫から始まったが、現在はニンニクの収穫だけでなく定植・種子割・マルチからの芽出し、さらにはタマネギの定植・除草・収穫・マルチ撤去、キャベツの中耕・土寄せ・収穫・配送などに拡充している。
農産物も青ネギ、バレイショ、ブロッコリー、キャベツ、コマツナ、レタス、サトイモなどに及んでいる。
11)一般就労
これまでに3名が農業法人に就職している。そのほか3名がうどん屋やファミリーレストランなどの厨房で働くなど、一般企業への就職も果たしている。
12)取り組みにあたって留意した点
<マッチングをPR>
  • 最初は取り組みをPRするために、地域の篤農家で、かつ既に人手不足から外国人研修生を受け入れていた農家などを選定した。また農作業に対する意欲の高い事業所職員のいる事業所を体験会に招いた。
  • さらに農家等に障害者を受け入れてもらいやすくするために、初めは農作業が上手にできる事業所に作業してもらい、障害者が作業できることを農家等に認識してもらうようにした。
  • なお、農家、農業法人等が障害者を受け入れるに当たり、部会の婦人部が大きな役割を果たした。実際に多くの農作業を担う女性の理解や意向が重要であったためである。
<事業所が参加しやすい条件>

目的は就労訓練や就労に限らず、生活介護やレクリエーションでも良いとして、さまざまな事業所が参加しやすいようにしている。また前述の通り、事業所は作業時間と作業量については契約で決められた日の中の指定された時間内に、作業ができれば良いとしている。例えば、1時間遅く来て、作業者を増やして短時間で作業を行い、1時間早く帰るなど。

<中間支援団体が作業を配分>

就労センターが窓口となり、作業を分配するようになったきっかけは、ある事業所が大学の草刈り作業を受託したが、翌年から他の事業所がより安い受託金額で仕事を請負ってしまい、結果として受託金額がどんどん低下する傾向にあったためである。県としても仕事配分をする就労センターを必要な存在として位置づけた(さらに県は就労センターのNPO法人化についても期待した)

<事業所および農家、農業法人等の事務負担の軽減>

作業実施後は報告書・請求書を作成し、提出することになっている。現在、就労センターは報告書を請求にも利用できるように業者に注文し、システム化を図っている。就労センターは単にマッチングさせ、調整するだけでなく、福祉側・農業側双方の事務負担の軽減にも努めている。

<行政の役割>

行政が委員会等に加わることで、地域のいろいろな団体によるネットワークをつくりやすくしている。また作業報酬の決定の場に参加することで、公正な取引とすることを促すことに繋がっている。

<関係性の重視>

農家からの作業依頼が込み合っても、最初の頃から付き合いのあった農家、農業法人等を優先して請負うことにしている。

  • JAが作業内容表(カルテ)を作成し、各農家や生産部会の要望を取りまとめる(または農業法人がカルテを作成する)
  • JA(または農業法人)はカルテを就労センターに提出する
  • コーディネーターは作業ができそうな障害者福祉事業所を判断する
  • コーディネーターが障害者福祉事業所に募集をかける
  • 障害者福祉事業所は申込み書を作成し、就労センターへ提出する
    (農家ごとの作業スケジュールを就労センターが作成し、農家へ提出)
    • 障害者福祉事業所の職員が農家の家に行き、作業内容を確認してもらう
    • 場合によっては、作業を体験してもらう
    • 簡易作業や継続の場合は現場に行かず書面上で決めることもある
  • 就労センターは障害者福祉事業所および(JAを通じて)農家との間で契約する
  • 作業スケジュールを農家へ配布
  • 作業実施
  • (作業の指導は、必要に応じて農家から障害者福祉事業所職員へ)
  • コーディネーターは日報、報告書、請求書原案を作成する
  • 障害者福祉事業所が就労センターへ作業報告書を提出する
    • 就労センターは農家に請求する
    • 障害者福祉事業所は就労センターに請求する
  • 報酬を農家から就労センターに支払う
  • コーディネーターが作業量に応じて、作業報酬を障害者福祉事業所ごとに支払う
13)取り組み事例
① 作業の例
ア)農家 Ⅰ

キャベツを一人で20a生産する80代女性の畑では、キャベツの選別とカットを女性が前日に行い、キャベツを農地に残す。翌日、そのキャベツを事業所が収穫および運搬し、工場まで運んでいる。

ア)農家 Ⅱ

ニンニクの植付作業では、ⅰ)横歩きが得意な障害者が畝に沿って土に穴を掘る、ⅱ)次に植えることが好きな障害者が苗を植える、ⅲ)そして職員が最後に土をかぶせる。というように作業分解し、それぞれが役割を持てるようにしている。

面積が大きい場合はいろいろな他の事業所の障害者と共同で作業することがある。

② 障害者福祉事業所の例

農作業班には18~34歳の知的障害者6名が参加しているが、そのうち3名は女性である。

工賃は1~10万円で、最も働いた者を1として、半分の作業量の者は0.5などと係数化し、工賃を算出している。売上の10%は就労センターへ、10%は農業をしていない事業所内の他の障害者へ、80%を実際に働いた障害者に配分している。意欲を高めるため障害者への工賃は手渡しとしている。

③ 農家の例
ア)農家 A

地域の篤農家。水稲、酪農、野菜生産を行っている。専業農家で70代の夫婦と長男夫婦とカンボジア人研修生1名の計5名で生産している。

障害者については、JAの支店長の紹介で受け入れた。実際に農作業をする姿を見て、すぐに委託することにした。最初はニンニクの収穫作業だけを委託したが、今ではさまざまな作業を委託している。

作業時間は9:30~15:00で、その中で作業を委託している。10a当たり1.5万円を支払っている。

障害者が入ることで面積規模を40a拡大できた。また売上、収益も上がり、新しい作業小屋やトラクターを購入することができた。

ア)農家 B

会社を定年退職した専業農家。60代の夫婦、そして娘が作業している。ニンニク1.4ha、米1ha、ブロッコリー30a、セレベス10a、サトイモ、オクラなどを栽培している。

最初はJAの支店長に頼まれ試験的に受け入れたところ、良かったことからそのまま依頼することにした。委託している作業は、ニンニクの植付け、芽かき、草抜き、収穫である。

障害者はコスト削減と農家の労働力負担の軽減に効果を発揮している。また作業効率が上がって、5a面積を拡大した。

委託して、これまでに困ったことはない。ただし、トイレについては近くのコンビニエンスストアを利用してもらっている。

14)取り組んで良かったこと
① 福祉側
  • 障害者は他人である農家から褒められたり、感謝されることが嬉しい。
  • 障害者は自分の役割を見出すことができている。
  • 障害者のコミュニケーション能力が向上した。例えば、挨拶ができるようになり、受託先の農家だけでなく、他の事業所の障害者にも挨拶できるようになった。
  • 一般就労に結びついた。
  • 工賃の向上に繋がった。
  • 新しい職域ができた。
  • 障害者の特性に合ったいろいろな作業ができる。
② 農業側
  • 重労働である作業を障害者が行ってくれる。
  • 障害者が手伝うようになって、耕作面積を維持、そして拡大できるようになった。
  • 障害者が土日に遊びに来るなど、障害者と交流が持てるようになった。
③ その他
  • この取り組みは地域に出て働く障害者を見て、地域住民にとって障害者や福祉について理解するきっかけになっている。
  • これまで委託をやめたいという農家、農業法人はない。
15)課題
<農業側のニーズに対応しきれない>
  • 現在23事業所が参加しているが、農家、農業法人等からのニーズは多く対応しきれない状況にある。
  • 収穫作業期間が5月の連休に集中したり、土日の作業がある場合、そのニーズに応えることができるようにすることが求められている。
<事業所の作業に温度差>

必ずしも目的は就労ではなく、レクリエーションなどの場合もあるため、事業所によって作業内容に温度差がある。

<農業技術のさらなる向上>

概ね3年を経過すると、農家も作業のスピードアップやさらに難しい作業を要求するようになってきている。一方で事業所側は、単純作業にマンネリ化を感じるようになっている。

<他事業所との連携>

他の事業所との作業連携が必ずしも十分ではない。

<作業報酬の向上>

まだまだ作業単価が安いので、さらに上げていく必要がある。

<作業時のトイレ確保>

トイレの確保が課題となっている。あらかじめ近隣のコンビニエンスストアに相談し使わせてもらったり、近隣の知り合いの家を利用させてもらっている。なかには農家が簡易トイレを軽トラで運び込んで用意しているところもあるが、このようなことはまだまだ少ない。

なお、トイレに行くときは、他事業所の障害者を他事業所の職員が連れて行くこともある。

<車の保険費用・減価償却費等>

コーディネーターはマッチング等のために現場や事業所を車で回るため、車にかかる保険費用や減価償却費などが必要となっている。